極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「……羽衣子……俺……」

 想汰は涙を流す羽衣子を前に何かを言おうと名前を呼ぶ。

 けれど羽衣子は小さく首を横に振った。

「……もう、いい……もういいよ」
「何だよ、もういいって……」
「もう、終わりにしよう、お兄ちゃん」
「は?」

 想汰が戸惑いの声を上げる中、羽衣子は涙を拭いながら静かに言葉を続ける。

「……お兄ちゃん……そう呼ぶのは、もう最後にするね」
「何言って……」
「今までありがとう……さよなら、……お兄ちゃん」

 言い終えると羽衣子はくるりと背を向け、そのままドアへ向かう。

「おい羽衣子! 待て、待ってくれ!」

 悲痛な叫びが背中に届くけれど、羽衣子は振り返ることなくドアを開けた。

 扉の向こうでは昴が静かに待っていて、羽衣子は涙を拭いながら彼を見上げる。

「……昴さん、ありがとう……ございました……っ。もう……大丈夫です……っ」

 その言葉を聞いた昴は優しく羽衣子を抱き寄せ、そっと頭を撫でた。

「そうか」

 穏やかな声で労いながら昴は尚も、「羽衣子!」と叫び続ける想汰へ冷たい視線を向け、想汰の声を意に介することなく静かにドアを閉めた。

 そのまま羽衣子を支えるように上の階へ向かい、事務所の個室へ入る。

 椅子に腰を下ろした羽衣子の隣へ昴も座り、落ち着くまで傍に付いていた。

 暫くして、落ち着きを取り戻した羽衣子がぽつりと口を開く。

「……兄とは……話をしました。もう今日限りで……兄と思うことを、やめました……。ちゃんと……さよなら、しました……っ」

 決意を口にした瞬間、ようやく収まりかけていた涙が再び羽衣子の頬を伝う。

「……ッ」

 そんな羽衣子をそっと抱き寄せた昴。

「そうか。よく頑張ったな」
「……うっ……、ひっく……」

 その温かな言葉と大きな手で優しく背中をさすられる温もりに羽衣子は、堪えていた感情を解き放つように小さく声を上げながら涙を流し続けた。
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