極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「そうだな、羽衣子さんからすりゃ、愛する男に罪を背負ってほしくねぇと思うのは当然だ。現に登紀子もそうだ。どんな理由があろうと人を殺めちゃいけねぇって考えの人間だからな」

 昴は黙って耳を傾ける。

「だがな、それが出来ねぇからって全てを柳生会に任せるってんなら、それは違う」

 亮治の声が少しだけ厳しくなる。

「それはただの責任逃れだ。心の底から納得してその結論を選ぶなら構わねぇ。だが納得しねぇまま人任せにすりゃ……お前は一生後悔する」

 その言葉は昴の胸へ深く突き刺さった。

 亮治は灰皿へ灰を落とすと静かに話を続けていく。

「……お前は知らねぇだろうが、慶太はな、香恵ちゃんの父親を手に掛けた」
「……え?」

 俯き加減だった昴は顔を上げた。

 兄のように慕ってきた男が人を殺めていたという話は一度も聞いたことがなかったからだ。

「香恵ちゃんとの出会いの話は聞いていたろ? 付き合ってた男が最低だったって話は」
「はい、勿論」
「彼女はな、父親にも恵まれなかった。当時はもう縁は切っていたらしいがな……香恵ちゃんの父親はどうしようもねぇクズだった。借金を娘に押し付けて自分だけ逃げ回る。羽衣子さんの兄、吾妻と同じような人間だったんだ」
「…………っ」
「この話を知ってるのは俺だけだ。香恵ちゃんにも話してねぇ。……まぁ、彼女は勘づいてたかもしれねぇがな」

 亮治は遠い昔を思い出すように目を細めていた。

「慶太は苦しむ香恵ちゃんを見て見ぬふりができなかった。何度も父親に接触して更生させようとしたんだが……奴は改善するどころか香恵ちゃんがキャバクラで働いてたことを嗅ぎつけると金の無心に現れやがった」
「…………っ」
「それだけならまだよかったんだ。断られて逆上した父親は借金のカタに香恵ちゃんを差し出そうとしてチンピラ共を雇って襲わせた」

 昴の拳に力が入る。

「幸い慶太が気づいて助けたが、アイツは父親を許せなかった」

 亮治は煙草の火を見つめながら静かに言った。

「父親が生きている限り、香恵ちゃんは何度でも狙われる。そう判断した慶太は自らの手で決着をつけたんだよ」

 そこで言葉が途切れたけれど、その先を語る必要はなかった。

 話を聞き終えた昴は目を閉じる。

 尊敬し、兄のように慕ってきた慶太も自分と同じ場所に立ち、愛する人を守る為に究極の選択を迫られていたという事実を知った瞬間、自分が抱いていた迷いや覚悟の甘さを痛いほど思い知らされたのだった。

「だからといって、お前も同じ道を選べと言ってるわけじゃねぇが……よく考えて、覚悟を持って自分で答えを出して欲しい……俺から言えることはそれだけだ。吾妻については柳生会へはまだ何も言ってねぇ。もう一度よく考えろ」
「…………はい」

 それだけ言うと昴は書斎を後にした。
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