極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 二人きりになると昴は改めて羽衣子へと向き直った。

「……それで、園でのことですが」

 急かすでも詰めるでもなく、ただ寄り添うような声で掛けられたその言葉に羽衣子は一瞬だけ視線を揺らし、

「……あの……」

 そう言いかけたところで言葉が止まる。

 本当に話していいのか――そんな迷いが、まだ胸の奥に残っていたから。

 けれど、目の前にいる昴の落ち着いた眼差しに触れた瞬間、不思議と肩の力が抜けていき、

「……実は……」

 ぽつりと羽衣子は口を開く。

「希海くんに手招きをした男の人に……見回りをした時、私も……会っているんです……」

 昴は何も言わず、小さく頷いた。

 その仕草に促されるように羽衣子は膝の上で指先をぎゅっと握りしめながら続けていく。

「……その人、私の名前を知っていたんです。初めて会ったはずなのに……『吾妻 羽衣子さんですよね』って……」
「……名前を」

 昴は短く繰り返して僅かに視線を落とす。

 そして何かを考えるような間の後、静かに問いかけた。

「……つかぬことをお伺いしますが最近、何か変わったことはありませんでしたか?」
「…………っ」

 その問いに羽衣子の胸が強く跳ねる。

 真っ先に浮かんだのは兄のことだった。

(……でも……)

 けれど、まさか兄が原因だなんて考えたくない羽衣子は唇を噛み小さく首を振る。

「……いえ、特には……何も……」

 視線を逸らしたままの返答に昴は何かを感じ取ったようだったが、それ以上は踏み込まず、

「……そうですか」

 穏やかに頷き声のトーンを少しだけ落とす。

「ただ……その男性が吾妻先生だけでなく、希海のことも知っている可能性はあります。そう考えると……私としても他人事とは思えません…………ですから、出来る限り力にならせてください」
「……」

 そして、そんな心強い言葉を掛けられた羽衣子の胸の奥には、じんわりと温かいものが広がっていた。
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