極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 観覧車にはそれほど客が並んでおらず、二人はほとんど待つことなく乗り込むことが出来た。

 向かい合わせに腰を下ろすと、ゆっくりとゴンドラが上昇していく。

「並ばずに乗れて良かったな」

 昴が外の景色を眺めながら言うと羽衣子も窓の向こうへ視線を向けた。

「観覧車って、きっと夕方とか夜の方が人気なのかもしれませんね」
「確かに、夜景とか見られるからな」

 そんな会話を交わしながら二人は穏やかに景色を楽しんでいると、羽衣子がふと口を開いた。

「……さっきは、すみませんでした」
「どうした、急に?」
「その……帽子のことです」
「ああ、これのことか」

 昴は頭に被ったままだった帽子を取って眺めた。

「どう見ても、俺がこんなのを付ける柄じゃないだろ」
「そんなことないですよ。似合ってます」
「おいおい。似合ってるはないだろ?」

 思わず苦笑する昴に羽衣子は小さく笑った。

「ふふ……すみません」
「お前は似合ってるな。こういうの」
「そうですか? ありがとうございます。でも、一番似合ってたのは広瀬さんのネコ耳カチューシャだったかなって思いました」
「ああ……まあ、あれは着てるシャツの色合いが影響してるのかもしれねぇがな」
「言われてみれば、確かに」

 顔を見合わせて二人は笑い合う。

 そんな穏やかな時間が流れていく中、観覧車がさらに高いところまで上がった頃、羽衣子がふと遠くを見るように目を細めた。

「どうした?」

 その変化に気付いた昴が尋ねるも、

「いえ……その……」
「何だ?」

 羽衣子はすぐには答えなかった。

 窓の外に広がる景色を眺めながら何かを思い出そうとするように目を伏せ、少し迷った末にぽつりと口にした。

「……観覧車に乗ってたら、思い出したことがあって……」
「思い出したこと?」
「…………その……小学生の頃、叔父さんに連れられて兄と遊園地に来たことがあって……」

 昴は何も言わず羽衣子の言葉に耳を傾けた。

「その時も観覧車に乗ったんです」
「…………」
「私が乗りたいって言ったのに……いざ乗ってみたら徐々に高くなっていく景色が怖くなって……」

 羽衣子は苦笑するように口元を緩めた。

「まだ上りきってもいないのに降りたいって泣いたんです」
「まあ、子供の頃ならそう思うのも無理はないかもな」

 昴がそう返すと羽衣子は小さく頷いた。

「……そうですよね」

 けれどそこまで話したところで羽衣子の声が途切れ、表情に陰りが浮かんでいる。

 想汰の話をしてしまったことを気にしているのだろうーーそう考えた昴は、

「……それから、どうしたんだ?」

 羽衣子が続きを話せるように問い掛けた。

「……え?」
「泣いて降りたいって言ったんだろ? そのあと、どうしたんだ?」

 そう尋ねられた羽衣子は昴の顔を見つめた。

 まるで、続きを話してもいいのかと確かめるように。

 昴が無言で頷くと、ほんの少しだけ表情を和らげた羽衣子はゆっくりと口を開いて続きを話し出した。
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