極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「綺麗ですね」

 外へ出た二人は旅館の周りを散策しつつ、夕日に染まる山並みに視線を向ける。

 綺麗な夕焼け空を前にした羽衣子の顔には子供のような無邪気な笑みが浮かび、

「本当だな」

 そう答えながらも昴は景色ではなく嬉しそうに笑う羽衣子の姿を見つめていた。

 やがて陽が山の向こうへ沈み始めて空が薄暗くなり始めた頃、二人は旅館へ戻っていく。

 二人が泊まる離れは先程見た景色とは逆側にあり、遠くの方には街の灯りが輝いて見える。

「それじゃあ……昴さん、お風呂、お先にどうぞ」

 夕ご飯まではまだ時間があるのでお風呂に入るのだが、羽衣子は昴に先にお風呂へ入るよう勧めると、昴は少し意外そうな顔をした。

「……一緒には入らないのか?」
「え!?」

 思わず声が裏返り、羽衣子の頬が一気に赤くなる。

 まさか昴の口からそのような言葉が出て来るとは思っていなかったからなのか、羽衣子は戸惑うばかり。

 確かに二人は一夜を共にした仲で、今日も二人きりなのだからきっと夜も……。

 そこまで考えたところで羽衣子は慌てて首を振った。

「い、いえ、その……!」

 言葉が上手く出てこないようで焦るばかりの羽衣子を前にした昴はまるで追い討ちをかけるように、

「……希海とは、いつも一緒に入ってるのにな。やはり俺と一緒なんて嫌か」

 とどこか拗ねたような声でそう口にする。

「そ、それは……希海くんは子供ですし、その、昴さんと一緒に入るのが嫌ということでは……」

 いつもと違う昴を前に慌てて否定しようとした羽衣子に昴は、

「冗談だ」

 フッと口角を上げると小さく笑った。

「……え?」
「俺はいいから、先に入ってこい」

 そう言って昴は何事もなかったかのようにサラリと言う。

 そこで羽衣子は気づいたのだ、からかわれていたということに。

「……もう……、人が悪いですよ、昴さん」

 頬を赤くしたまま恨めしそうに昴を見る。

「意地悪です」
「そうか?」
「そうです」

 昴は頬を膨らませて怒る羽衣子の反応を楽しむようにもう一度小さく笑った。

「まあ、羽衣子がどうしてもと言うなら一緒に入るのもアリだがな?」
「……っ、昴さんの意地悪……」

 まだ少し恥ずかしそうにしながら羽衣子は露天風呂へ向かって行くと、その背中を昴は優しげな瞳で見つめていた。
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