極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 羽衣子の自宅アパートへ向かう中、昴はハンドルに手を添えたまま、ちらりと彼女へ視線を向ける。

「……先程の話ですが……最近、本当に何も変わったことはありませんでしたか?」

 責めるでも探るでもない、あくまで優しく確かめるような問いかけで再度質問を投げ掛ける昴。

「……」

 羽衣子は一瞬言葉を失うけれど、昴になら話してもいいように感じたのか、ゆっくりと口を開いた。

「……実は……一つだけ……つい先日、音信不通だった兄から……手紙が来たんです」

 その瞬間、昴の指先が僅かにハンドルの上で止まる。

「……お兄さんから」
「はい……それで……明日、兄が私に会いに来ることになっているんです……」

 言いながら羽衣子はどこか不安げに視線を落とした。

 久しぶりの再会のはずなのに何とも言えない胸の奥に残る引っ掛かりを上手く言葉に出来ないまま、ただ事実だけを並べていく。

 兄との経緯を聞いた昴はすぐに何かを言うことはなかった。

 ただ、静かに頷きながらその話を受け止める。

「……そうですか」

 そして短い相槌の後、穏やかな声で続けた。

「長い間音信不通だったお兄さんと連絡が取れて……本当に良かったですね」
「……はい」

 昴はそれ以上踏み込まず、ただ前を見据えながら車を走らせる。

 けれど内心では怪しんでいた。

 ずっと音沙汰の無かった兄からの突然の連絡と、怪しい男が現れたこと。

 偶然にしては出来すぎている気がすると。

(……考え過ぎ……か)

 職業柄、真っ先に相手を警戒してしまう昴は考え過ぎかと思うも、そう結論づけるにはどうにも違和感が拭えなかった。

 やがて車は羽衣子の住むアパートの前に到着する。

「着きました」
「……ありがとうございます」

 シートベルトを外しながら羽衣子は少しだけ表情を緩めた。

「今日は……本当にありがとうございました」
「いえ。こちらこそ、突然のお誘いにも関わらず受けていただいて感謝しています。それでは、月曜日から仕事終わりには乙哉を迎えにやりますので。メッセージにて勤務時間の共有をよろしくお願いしますね」
「はい、分かりました。よろしくお願いいたします」

 短いやり取りの後で羽衣子は車を降りてドアを閉める直前、もう一度だけ軽く頭を下げた。

「おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」

 その背中を見送ってから昴は自宅へ向けて車を走らせていく。

 そして、信号に引っ掛かったところでワイヤレスイヤホンを取り出して耳に装着するとスマートフォンを操作してどこかへ電話を掛け始め、数回のコール音の後に繋がった相手へ話をしていく。

「……俺だ。悪いが一件、調べてもらいたい人物がいる」

 僅かな間を置き、言葉を続ける。

「――吾妻 羽衣子という女だ。家族関係も含めて……身辺を一通り」

 羽衣子の名を口にした後、相手の返答を聞いて短く頷き、

「……ああ、急ぎで頼む」

 用件が済んで通話を切った昴は小さく息を吐いた。
< 20 / 117 >

この作品をシェア

pagetop