極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 そんな羽衣子の視線の先を追った昴は、部屋の隅に置かれたウサギのぬいぐるみに目を留めると一瞬の沈黙の後、すっと立ち上がる。

 そしてぬいぐるみを手に取ると、振り返って静かに問いかけた。

「……これですね?」

 羽衣子は言葉を発さないまま、ただ小さくコクリと頷いた。

 昴はぬいぐるみを軽く持ち上げ、感触を確かめるように指先でなぞっていく。

 すると、お腹の辺りでその手がぴたりと止まった。

 柔らかな綿の感触の中に、明らかに異質な“芯”のようなものがあるのを確認したからだ。

 それから注意深く観察するとぬいぐるみの背にある縫合の具合が僅かに違っているのを見つけた昴。

 糸の張りも不自然で、誰かが後から弄った形跡がある。

 昴は一度だけ羽衣子に視線を向ける。

「……中を確認してもいいですか?」

 その問いに羽衣子は少し躊躇いながらも、ゆっくりと頷いた。

「……はい」

 許可を得ると昴は近くにあったハサミを取り、縫合部分に刃を入れる。

 そして慎重に開いていくと、中の綿の奥から黒い小型の機器が姿を現す。

 それは紛れもなく盗聴器だった。

「……やっぱり」

 低く呟く昴の声とは対照的に盗聴器を目にした羽衣子の呼吸は一瞬止まり、

「……っ」

 次の瞬間、身体が小刻みに震え始める。

 視線は盗聴器に釘付けのまま思考が追いつかない。

(どうして……ぬいぐるみに……? これって……まさか……お兄ちゃんが……?)

 頭の中で疑問が渦巻き、まともに考えることすら出来ない状態だった。

 昴はその様子を横目で確認しつつ、無言で盗聴器を摘み上げると指先に力を込める。

 すると小さく、ミシッという音と共に内部の機械の砕ける音がした。

 それから、ぬいぐるみと壊れた機器をテーブルに置いた昴は静かに問いかけた。

「……このぬいぐるみは、どなたからいただいた物ですか?」

 羽衣子はピクリと肩を震わせ、視線を落として唇を噛み締めた。

 言いにくい――そんな躊躇いがはっきりと見て取れた。

 それでも、やがて観念したように小さな声で口を開く。

「……先日、兄から……」

 その言葉を聞いた瞬間、昴の表情が僅かに曇る。

「…………そうでしたか」

 ぽつりと零れたその一言には何とも言えない気まずさと、重い含みが滲んでいた。
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