極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「希海、パパは今忙しいんだよ。今日は俺と帰ろ、な?」

 男は苦笑しながら優しく声をかけるが希海は首を横に振るばかりで、羽衣子から手を離そうとしない。

 羽衣子は困惑する男へ視線を向けた。

「熱もあって、きっと不安なんだと思います……」
「うーん、そうは言ってもなぁ……」

 男は肩を竦めると、ポケットからスマートフォンを取り出した。

「……仕方ねぇ、このままじゃ埒が明かなねぇから……昴さんに連絡するか……」

 そして、そう言いながら迷いなく電話をかけた。

「――あ、忙しいとこすんません。今、保育園に来てるんすけど、希海が俺じゃヤダって聞かなくて……。保育士さんが、熱もあるから不安なんだろうって……あ、そうっすか? 分かりました、それじゃあお願いします」

 短いやり取りを終えた男はスマートフォンを耳から離すと羽衣子へ向き直った。

「昴さん、すぐ来るってさ」
「……え?」
「希海の父親、仕事抜けてくるって」

 あまりにもあっさりとした返答に羽衣子は思わず目を見開いた。

 さっき何度電話しても繋がらなかったのに――そう思う一方で、父親が直接来てくれるのなら安心だと、ひとまず胸を撫で下ろす羽衣子。

 それから暫くして、再び園の扉が開いた。

「――遅くなりました」

 やや息を乱しながら現れたのは昴だった。

「パパぁ……っ」

 その姿を見た瞬間、希海は涙声で手を伸ばす。

 昴はすぐに駆け寄りその小さな体を優しく抱き上げた。

「ごめんな、遅くなって」

 低く穏やかな声にいつもと変わらぬ優しげな表情。

 だけど、

「……っ」

 羽衣子は思わず息を呑む。

 昴の右頬が薄く腫れて赤黒く変色していたから。

「……あの、その頬……」

 思わず口にすると昴は一瞬だけ羽衣子へ視線を向ける。

「ああ……これですか」

 そう言って軽く傷口に触れた。

「ちょっとぶつけただけなので、大したことはありません」
「でも……手当、した方が……」

 心配が先に立ち羽衣子がそう申し出るも、昴は小さく首を横に振った。

「いえ、本当に大丈夫ですので」

 その言い方は柔らかいものの、これ以上踏み込ませないという意思が滲んでいる気がした。

「……すみません、今日はこのまま帰ります」

 そう告げて希海を抱き直すと、昴は先に来ていた男へ軽く目配せをする。

「車を回してくれ」
「了解っす」

 男は頷くと羽衣子に軽く会釈をして部屋を出て行った。

「それじゃあ、失礼します」
「あ、はい……お大事に……」

 希海の荷物を手渡しながら羽衣子はただ二人の背中を見送ることしか出来なかった。
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