極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「……残念ですよ」

 その声音は穏やかだったが、真っ直ぐに向けられた眼差しにはどこか厳しさが宿っている。

「……あれほど忠告したのに」
「……私……っ」

 喉が詰まり上手く声にならない羽衣子の様子を見た昴はふっと息をつき、表情を少し和らげた。

「まずは落ち着いてください。うちの組の者は愛想が無い者ばかりで……いきなり凄まれて、さぞ驚かれたでしょう。契約書、貸していただけます?」

 差し出された手に、羽衣子は戸惑いながらも契約書を渡す。

 昴はそれを受け取ると静かに目を通しながら口を開いた。

「これはどういう契約だと聞かされて、サインをされたのですか?」
「……あ、その……通信機器の契約で……あくまでも、名義を貸すだけ……だと……」
「そうですか……まあ、これは良くありがちな話なんですよ。こういった世界ではね」

 その言葉に羽衣子は何も返せず俯く。

 昴は一度だけ羽衣子を見てから再び問いを重ねた。

「きちんと契約内容は読まれましたか?」
「その……ザッとは……」
「……説明されて、というところでしょうか?」
「……はい……」

 気まずそうに返される言葉の後で短い沈黙が落ち、昴は小さく肩を竦めた。

「口の上手い方は、こういうやり口が他の者よりも上手(うわて)なんですよね……貴方のようなお人好しな人間をターゲットを絞って、嘘の契約を結ぶやり口が」
「…………」

 羽衣子は何も反論は出来ず、俯くだけ。

「詐欺師に多い手口ですね」
「……詐欺師……」

 その言葉を繰り返した羽衣子の声は、か細く震えていた。

 そんな羽衣子に更に追い打ちを掛けるように昴は僅かに目を細めると、

「まあ、貴方のお兄さんは詐欺師よりもタチの悪い人間であることは違いないですけど」

 そう断言するように言った。

「……え?」

 それには思わず顔を上げる羽衣子。

 昴は表情を変えず、事実だけを告げるように続けた。

「貴方のお兄さんは貴方の他にも多数の人間を騙して、多方面から借金を繰り返しています」
「そんな……」
「信じたくは無いでしょうけど、それが事実です」

 静かに断言され、羽衣子は言葉を失う。

「貴方も、そのお人好しな性格は少し直した方が良いかもしれませんね」

 ふっと、いつものような柔らかな笑みが浮かぶけれど、その奥には僅かな棘がある。

「そうでないと、また……騙されますよ」
「…………」

 何も言えない羽衣子はただ落胆する。

 それと同時に、

 どうして昴はここまで知っているのか。

 何故この状況を当然のように理解しているのか。

 そして、そもそも昴は一体何者なのか。

 そんな疑問が次々と浮かんだ羽衣子は恐る恐る口を開いた。

「……京極さん……あなたは、一体……」

 その問いに昴は表情を崩すことなく答えた。

「……柳生会(やぎゅうかい)七鳳組(しちほうぐみ)という組織の三代目若頭を任されています」

 穏やかな口調のまま告げられたその言葉は、あまりにも重かった。

(柳生会……七鳳組……? 若頭……)

 そして、あの日の夜に見たあの男の人はやはり昴で間違い無かったのだと改めて思い直した羽衣子は、驚き過ぎて言葉を発することが出来なかった。
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