極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
疑問
 今日から希海は新しい幼稚園へ通うことになっていて、朝食を終えて制服へ着替えると、落ち着かない様子でそわそわしている。

「ういちゃんいないの、やだ……」

 小さく零された不安げな声に、羽衣子は優しく目を細めた。

「希海くん、お迎えに行くまで頑張ろ? そうだ! 今日は幼稚園から帰って来たら一緒にホットケーキ作ろっか?」
「ほんと?」
「うん」

 そう言って笑いかけると、希海は嬉しそうに笑い、元気良く玄関へ向かって行く。

 新しい幼稚園への送迎は、朝はこれまで通り昴が担当し、帰りは乙哉が車を出して羽衣子が迎えに行くことになっている。

「では、行ってきます」
「いってらっしゃい」

 玄関先で手を振ると希海は何度も振り返りながら、「ういちゃん、あとでねー!」と大きく手を振っていた。

 その姿が見えなくなるまで見送った後、羽衣子は小さく息を吐き、

「……さてと、やりますか」

 早速家事へ取り掛かった。

 朝食の片付けをしている間に洗濯機を回し、その後で洗濯物を干してから掃除機を掛ける。

 住まわせてもらってはいるものの他人の部屋ということもあって、気を遣いながらの家事は意外と時間を要し、いつの間にか時計の針は昼前を指していた。

「ふぅ、ひとまず終わったかな……」

 お昼ご飯はどうしようと考えながらソファーへ腰を下ろした羽衣子はふぅと息を吐く。

 しんと静まり返った部屋の中、羽衣子はぼんやりとリビングを見渡した。

 視線の先には整った室内。

 羽衣子が掃除をしていて思ったのは、必要な物は揃っているのに不思議と“生活感”が薄いこと。

 そこでふと、あることに気づく。

(……そういえば)

 この家には、家族写真のようなものが一枚も飾られていない。

 その瞬間、以前保育園で耳にした噂話が脳裏を過る。

 それは、希海が保育園へ途中入園して来たばかりの頃。

『ねぇ、希海くんのお父さん、すごく格好良くない?』
『しかもシングルらしいよ』
『えー、そうなんだ? 離婚かな? それとも死別……』
『詮索するのはよくないって分かってるけど、気になるよね』

 昴は目を引くほど整った容姿をしていて物腰も丁寧だったことに加えて“シングルファザー”という肩書きがあったことで、余計に注目されていたのだ。

 当時の羽衣子も周り同様気になっていたのは事実だけど、人様の家庭のことを深く考えたことはなかった。

 けれど、今は違う。

 こうして同じ家で過ごしているからこそ、気になってしまう。

(……希海くんのお母さんって、どうしてるんだろう)

 亡くなっているのだとしたら、写真の一枚くらい飾ってあってもおかしくない気がする。

 だとしたら、

(離婚、とか……?)

 そこまで考えて、羽衣子は小さく首を振った。

「……いや、やっぱり勝手に詮索するのは良くないよね」

 ただ、そう思っても一度気になり始めるとなかなか頭から離れてくれず、結局色々考え込んでいるうちに時間は過ぎていき、軽く昼食を済ませた羽衣子は希海の迎えの時間が近づいていることに気づいて急いで出掛ける支度を整えた。

 すると、インターホンが鳴り、玄関を開けると車を出してくれる乙哉が立っていた。

「準備出来てる?」
「あ、はい、お願いします」

 何とか準備を終えることが出来た羽衣子は軽く頭を下げ、乙哉と共に駐車場へ向かっていく。

 そして、車が走り出した後も、頭の片隅には希海の母親についての疑問が残り続けていた。
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