極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 夜、仕事を終えた昴が玄関の扉を開けると、ぱたぱたと小さな足音が響いた。

「パパ、おかえりー!」

 勢いよく飛び出してきた希海の後ろからは羽衣子も顔を覗かせる。

「おかえりなさい」
「……ただいま帰りました」

 一瞬、昴は言葉に詰まった。

 玄関で異性に“おかえり”と言われること自体、久しぶりだったからだ。

 ましてや、こうして親子のように並んで出迎えられる光景は妙に現実感がなく、胸の奥がむず痒くなる。

「パパきいて! きょうね、ようちえんで――!」
「分かった、後で話は聞くから少し待ってくれ。な?」
「えー」

 興奮気味の希海を宥めながら昴が苦笑すると、そのやり取りを見ていた羽衣子はふっと小さく笑みを零した。

「希海くん、パパは帰って来たばかりで疲れてるから、まずはお風呂に入ってもらおう。ね?」
「うん! あのね、おふろでね、ういちゃんとあそんだ!」
「そうか、良かったな」
「うん!」

 希海は今日あった出来事を話したくて仕方がないようで、思い出したかのように次々と話を始める。

「希海くん、パパのご飯の準備のお手伝い、してくれるかな?」

 どこかで収拾をつけないとと考えた羽衣子は希海に昴の夕ご飯の準備を手伝ってもらおうと考え、それを提案すると、

「やる! パパ、おふろはやく!」

 興味の対象が話すことからご飯の準備へと移ったことで、昴はようやく解放され風呂へ入ることになった。

 昴が風呂へ入っている間、羽衣子と希海は温め直した夕食を食卓へ並べていく。

 やがて風呂を終えた昴が戻ってくると、待ち構えていたように希海が再び話し始めた。

「パパ! きょうね、おともだちできた!」
「そうか、良かったな」
「うん!」

 嬉しそうに話す希海を見ながら昴は食事を進めていく。

「あとね、ういちゃんとホットケーキつくった! ぼく、たまごわった!」
「上手に出来ましたよ。少し殻入っちゃいましたけど」
「そうか、手伝いが出来て偉かったな、希海」
「えへへ」

 家族団欒のようなこの空気が驚くほど自然に感じ、まるで最初からこういう日常だったかのように錯覚する昴。

 暫く会話を続けていると、希海の寝る時間が近づいてきた。

「希海くん、そろそろ寝ようか」
「えー……」
「明日も幼稚園だから、起きられないと困るよ?」
「……はーい」

 渋々頷いた希海の手を引き、羽衣子は寝室へ向かう。

 今日は新しい環境で気を張っていたのだろう。

 ベッドへ入ってしばらくすると、希海はあっという間に寝息を立て始めた。

「……ふふ、おやすみ」

 小さな頭をそっと撫でた羽衣子は静かに寝室を出てリビングへ戻ると、昴は自身の食器を洗い始めていた。
< 55 / 117 >

この作品をシェア

pagetop