極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 同居生活を始めてひと月程が経った夜、夕食を終えた後で羽衣子はキッチンで食器を洗いながら小さく息を吐いた。

(……ちょっと怠いかも)

 ここ最近は新しい生活に慣れることで精一杯だった羽衣子。

 当然疲れは出るだろうが弱音を吐くほどではないと思っていて、今日は早めに休もうとそのまま洗い物を続けていた羽衣子だけど、

「吾妻さん」

 希海と風呂から上がった昴に声を掛けられ、肩がぴくりと跳ねる。

「はいっ」

 昴の方に視線を移すと、じっと羽衣子の顔を観察するように細められる彼の視線に思わず逸らしそうになる。

「……顔色が優れないように見えますが、大丈夫ですか?」
「え、あ、大丈夫、です……」

 体調が悪いことを言い当てられて驚いた羽衣子は咄嗟に「大丈夫」と口にするも、

「大丈夫そうには見えませんよ? 後片付けは私がやりますから、今日はもう休んだ方が良いです」
「でも、本当に大したことは――」
「大したことはなくても、いつもとは違う、そういうことですよね? 悪化したら困りますから、今日は休んでください」
「…………」

 静かな口調で言い切られ、羽衣子は言葉を詰まらせた。

「熱は?」
「ないと思います」
「“思います”ではなく測ってください」
「はい……」

 結局、押し切られる形で体温計を渡され測ると、表示された数字は微熱程度。

「……やっぱり少し熱がありますね」
「すみません」
「謝る必要は無いです。さ、早く部屋へ」

 言って昴が羽衣子を部屋へ戻そうとすると、寝室から絵本を持って来た希海が、

「ういちゃん、えほんよんでー!」

 羽衣子の元へ駆けて来た。

「あ、ごめんね、希海くん……今日はちょっと……」

 部屋へ戻らなければならない羽衣子が断ろうと口を開きかけると、

「希海、吾妻さんは熱があるから今日はもう休むんだ。俺が読むから少し待ってなさい」

 希海に羽衣子は体調が悪くて部屋で休むことを説明するも、

「やだ! パパじゃなくてういちゃんがいい!」

 納得いかないのか、羽衣子の足元にしがみついて離れない。

「希海、我侭もいい加減に――」

 普段希海に対して怒らない昴が怒りかけた、その時、

「あの! せめて、ソファーで休むので、絵本、読んであげてもいいですか? 朝、約束していたので……」

 この場を収めようと羽衣子がソファーで休む提案をすると、

「……分かりました、それでは一冊だけ……すみませんが希海に読んでやってください。それが終わったら私が寝かしつけますので、吾妻さんは部屋で休んでください」

 もうすぐ寝る時間の希海の機嫌を損ねない方が得策かと考え直した昴は、渋々羽衣子の提案に首を縦に振った。
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