極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
キッチンから水道の流れる音が静かな部屋へ響く中、羽衣子は希海に絵本を読み聞かせ始めた。
柔らかな声に、希海が嬉しそうに目を輝かせる。
そんな二人の様子を昴は食器を洗いながら何度も窺っていた。
微熱程度だと本人は言っていたが、普段と比べれば明らかに顔色が悪い。
それに加えてどこかぼんやりしていて、声にも僅かに力がない。
(……やはり、早く休ませるべきだったか)
無理をさせたくない一方で、希海の機嫌を考えれば強引に引き離すのも難しかった。
昴は小さく眉を寄せながら、洗い終えた皿を棚へ戻していく。
そして片付けを終えるのとほぼ同時に、羽衣子も絵本を読み終えた。
「――おしまい」
「もういっかい!」
「え?」
ぱっと顔を上げた希海が、今度は別の絵本を取って来ようとソファーを降りかけると、キッチンから戻ってきた昴が抱き上げ、静かに口を開いた。
「希海、一冊だけの約束だっただろ?」
「えー……」
「もう寝るぞ」
昴のその言葉に、希海は不満そうに頬を膨らませる。
「やだー」
「駄目だ。行くぞ」
「希海くん、また明日ね」
「うん……」
昴には 半ば強引に連れられ、二人は寝室へ向かって歩き出した。
静かになったリビングで羽衣子は小さく息を吐く。
本当なら、そのまま自分も部屋へ戻るべきだと分かっているけれど、
(……あれ)
急に身体が重くなり、熱が上がってきたのか羽衣子は動けなくなる。
(少しだけ休んでから部屋へ戻ろう)
そう思ってソファーへ身体を預けた瞬間、瞼がゆっくり閉じていった。
それから暫くして、希海を寝かしつけた昴がリビングへ戻ってくると、ソファーには眠ってしまった羽衣子の姿があった。
「……吾妻さん?」
小さく声を掛けるが返事は無く、規則正しい寝息だけが聞こえてくる。
起こそうか一瞬迷ったものの昴はすぐに思い直した。
(辛そうだったし、起こすより運んだ方が早いか)
そして、静かにソファーへ近付くと羽衣子の身体をそっと抱き上げ、そのまま部屋へ向かって歩き出したところで、
「……ん」
昴の腕の中で羽衣子が小さく身じろぎする。
(……えっ)
ぼんやりした意識の中で自分が抱き上げられていることを理解した瞬間、驚いて飛び起きそうになるも、ここで目を覚ましてどのような反応をすれば良いか分からなかった羽衣子は必死に寝たふりを続けた。
やがて部屋へ辿り着くと昴は静かに羽衣子をベッドへ横たえ、布団を掛ける手付きまで驚くほど丁寧だった。
扉が閉まる音が聞こえた瞬間、羽衣子は勢いよく目を開けた。
「…………」
異性に抱き上げられ、運ばれるという経験をこれまで一度もしたことが無かった羽衣子にとって、先程の出来事を思い返しただけで顔が熱くなる。
ただでさえ昴は少しの変化にもすぐ気付き、無理をすれば心配して自然に気遣ってくれる。
そんな優しさに触れるたび、胸の奥が落ち着かなくなっていた。
(……駄目)
そう思いながら、ぎゅっと布団を握り締めた。
羽衣子は気付いていた。
自分が昴に惹かれていることに。
けれど、彼には希海がいて、そして今はどうしているのか分からないけれど、奥さんがいるはずなのだ。
それを思うと胸の奥が複雑にざわついていく。
それに、自分はあくまで借金の代わりに雇われている家政婦兼シッター。
それ以上でも、それ以下でもない。
だからこそ、この気持ちは抑えるべき――そう自分へ言い聞かせながら羽衣子は熱を持った頬を隠すように布団へ顔を埋めるのだった。
柔らかな声に、希海が嬉しそうに目を輝かせる。
そんな二人の様子を昴は食器を洗いながら何度も窺っていた。
微熱程度だと本人は言っていたが、普段と比べれば明らかに顔色が悪い。
それに加えてどこかぼんやりしていて、声にも僅かに力がない。
(……やはり、早く休ませるべきだったか)
無理をさせたくない一方で、希海の機嫌を考えれば強引に引き離すのも難しかった。
昴は小さく眉を寄せながら、洗い終えた皿を棚へ戻していく。
そして片付けを終えるのとほぼ同時に、羽衣子も絵本を読み終えた。
「――おしまい」
「もういっかい!」
「え?」
ぱっと顔を上げた希海が、今度は別の絵本を取って来ようとソファーを降りかけると、キッチンから戻ってきた昴が抱き上げ、静かに口を開いた。
「希海、一冊だけの約束だっただろ?」
「えー……」
「もう寝るぞ」
昴のその言葉に、希海は不満そうに頬を膨らませる。
「やだー」
「駄目だ。行くぞ」
「希海くん、また明日ね」
「うん……」
昴には 半ば強引に連れられ、二人は寝室へ向かって歩き出した。
静かになったリビングで羽衣子は小さく息を吐く。
本当なら、そのまま自分も部屋へ戻るべきだと分かっているけれど、
(……あれ)
急に身体が重くなり、熱が上がってきたのか羽衣子は動けなくなる。
(少しだけ休んでから部屋へ戻ろう)
そう思ってソファーへ身体を預けた瞬間、瞼がゆっくり閉じていった。
それから暫くして、希海を寝かしつけた昴がリビングへ戻ってくると、ソファーには眠ってしまった羽衣子の姿があった。
「……吾妻さん?」
小さく声を掛けるが返事は無く、規則正しい寝息だけが聞こえてくる。
起こそうか一瞬迷ったものの昴はすぐに思い直した。
(辛そうだったし、起こすより運んだ方が早いか)
そして、静かにソファーへ近付くと羽衣子の身体をそっと抱き上げ、そのまま部屋へ向かって歩き出したところで、
「……ん」
昴の腕の中で羽衣子が小さく身じろぎする。
(……えっ)
ぼんやりした意識の中で自分が抱き上げられていることを理解した瞬間、驚いて飛び起きそうになるも、ここで目を覚ましてどのような反応をすれば良いか分からなかった羽衣子は必死に寝たふりを続けた。
やがて部屋へ辿り着くと昴は静かに羽衣子をベッドへ横たえ、布団を掛ける手付きまで驚くほど丁寧だった。
扉が閉まる音が聞こえた瞬間、羽衣子は勢いよく目を開けた。
「…………」
異性に抱き上げられ、運ばれるという経験をこれまで一度もしたことが無かった羽衣子にとって、先程の出来事を思い返しただけで顔が熱くなる。
ただでさえ昴は少しの変化にもすぐ気付き、無理をすれば心配して自然に気遣ってくれる。
そんな優しさに触れるたび、胸の奥が落ち着かなくなっていた。
(……駄目)
そう思いながら、ぎゅっと布団を握り締めた。
羽衣子は気付いていた。
自分が昴に惹かれていることに。
けれど、彼には希海がいて、そして今はどうしているのか分からないけれど、奥さんがいるはずなのだ。
それを思うと胸の奥が複雑にざわついていく。
それに、自分はあくまで借金の代わりに雇われている家政婦兼シッター。
それ以上でも、それ以下でもない。
だからこそ、この気持ちは抑えるべき――そう自分へ言い聞かせながら羽衣子は熱を持った頬を隠すように布団へ顔を埋めるのだった。