極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 自分の気持ちに気付いてしまってからというもの、羽衣子は以前よりも昴を意識してしまうようになっていた。

 目が合うだけで鼓動が跳ね、近くに来られるだけで落ち着かなくなって、少し優しくされただけで胸の奥が熱くなる。

 そんな自分を悟られないよう、羽衣子は必死に平静を装っていた。

 普段なら些細な変化にもすぐ気付く昴は、そんな羽衣子の様子には気付いていないようで、羽衣子の中でどこか複雑な感情が残り続けていた。

 そんなある日のこと、いつものように乙哉と一緒に希海を幼稚園へ迎えに行った帰り道。

 車内には希海の楽しそうな声が響いていた。

「きょうね、ブロックでおしろつくったの!」
「へえ、すごいな」
「あとね、おえかきして、パパとういちゃんとおとくんかいた!」
「そうなの? 後で見せて欲しいな」

 羽衣子が笑顔でそう返すと、希海は嬉しそうに「うん!」と頷いた。

 終始ご機嫌だった希海だったが、不意にその声が途切れ、そして、小さな声でぽつりと呟いた。

「……ぼくのママ、どこ?」
「……え?」

 突然の問いに、羽衣子は思わず目を見開く。

 それと同時に乙哉も僅かに表情を変えた。

「どうしたの、急に」
「おえかきしたとき、たかしくんが、“なんでのぞみくんのえにはママがいないの”って……」

 きっと、その“たかしくん”という子に悪気はなかったのだろう。

 ただ純粋に、不思議に思って尋ねただけ。

 けれど、その何気ない一言は、幼い希海の胸に引っ掛かったのだ。

 すると、乙哉が静かに口を開いた。

「希海、パパから聞いてるよな?」

 バックミラー越しに希海を見ながら、穏やかな声で続けていく。

「ママは空から希海を見守ってるって」
「……うん、きいたけど、おそらのどこにいるの?」
「それは俺にも分からねぇんだよ」

 苦笑混じりにそう言ってから、乙哉は優しく言葉を重ねた。

「でも、会えなくても希海のことはいつも見守ってくれてる。分かるだろ?」
「……うん」

 理解しているかは分からないが、希海は小さく頷いた。

 そのやり取りを聞きながら、羽衣子の胸は妙にざわついていた。

 今の言い方では、まるで希海の母親が既に亡くなっているようにも聞こえる。

 けれど、どこか曖昧だった。

 本当に亡くなっているのか、それとも別の理由で会えないだけなのか判断がつかなかった。
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