極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
 その後、希海が母親について聞くことはなく、車はマンションへ到着した。

 そしていつも通り部屋の前まで送った乙哉が、不意に羽衣子を呼び止める。

「羽衣子ちゃん」
「……はい」
「羽衣子ちゃんはまだ、昴さんから希海の母親について、聞いてないんだよね?」
「はい……」
「もしかしたら、また希海が母親のこと聞いてくるかもしれない」
「…………」
「その時は、さっき俺が言ったみたいに答えておいて」
「……分かりました」

 それだけ告げると、乙哉は「じゃあまた」と軽く手を上げ、そのまま帰っていった。

 羽衣子は曖昧に頷いたものの、胸の中のもやもやは消えなかった。

 その夜、仕事で帰りが遅くなった昴の為に夕食を温め直しながら、羽衣子は今日あった出来事を話した。

 幼稚園でのこと。

 希海が母親について尋ねてきたこと。

 そして、乙哉が答えた内容を。

「……そうですか」

 全てを聞いた昴は静かにそう返したけれど、それ以上は何も言わず、どこか考え込むように視線を落とすとその話題はそこで終わってしまった。

 昴が食事を終え、後片付けを済ませた羽衣子が自室へ戻ろうとした、その時だった。

「……吾妻さん」
「はい?」

 昴はソファーに腰掛けたまま羽衣子を呼び止め、真っ直ぐに彼女を見つめている。

 その表情はいつになく真剣で、まるで何かを覚悟したようにも見える。

「話しておきたいことがあります」

 その言葉に羽衣子は自然と背筋を伸ばした。

「……はい」
「こちらへ」

 促されるまま向かい側へ腰を下ろすと、昴は数秒ほど沈黙した後に、静かに口を開く。

「今日のことを踏まえると、貴方には話しておいた方がいいと思ったので、何故、私がシングルになったのか――それについて順を追ってお話しします」
「…………」
「…………まず初めに――私と希海の間に、血縁関係はありません」
「え……?」

 そして、昴が最初に告げたのは羽衣子が予想もしていない事実だった。
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