極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「慶太さんと出会ったのは、私が十八の頃でした」

 昴の話に羽衣子は黙ったまま耳を傾ける。

「私はあまり家庭環境に恵まれていなくて、高校卒業と同時に家を出たんです。当時は学歴も資格もありませんでしたし、まともな仕事を探す余裕も無かった。ただ、生きる為に金が必要だった」

 淡々と語る声には感情の起伏が少ないけれど、それが逆に当時の過酷さを物語っているようだった。

「そんな時、街でホストにスカウトされましてね」
「ホスト、ですか……」
「ええ。顔だけは良かったようで」

 冗談めかして言ったものの、その口元に笑みは浮かんでいない。

「そこで出会ったのが慶太さんでした。当時、店でNo.1を張っていた人です」

 昴の視線が僅かに柔らかくなる。

「慶太さんは入店したばかりの私に何故か目をかけてくださって、接客の仕方から客の掴み方、酒の作り方まで……徹底的に叩き込まれました」
「……厳しい方、だったんですか?」
「ええ。かなり」

 そう言いながら昴は小さく息を漏らす。

「ですが、不思議と嫌ではなかった。初めてでしたから。自分を必要としてくれる人間がいるというのが」

 その言葉に羽衣子の胸が僅かに締めつけられた。

「それから数ヶ月で、私はNo.2になりました」
「……数ヶ月で?」
「ええ。恐らく、才能はあったのでしょう」

 さらりと言うその姿に嫌味は無く、ただ事実を述べているだけなのだと分かる。

「慶太さんと私の二枚看板になってから、店の売上はかなり伸びたそうです。指名争いだのイベントだの……店も随分盛り上がっていました……ですが、楽しかった時間は長くは続きませんでした」

 静かな声音に再び空気が引き締まる。

「私が二十歳になった頃、慶太さんが七鳳組の組長に気に入られましてね」
「組長さんに……?」
「ええ。元々、店にはそういう関係の客も多かったので。慶太さんも初めは断っていましたが、何度も声を掛けられたことで悩み、考え、最終的に慶太さんはホストを辞めて七鳳組へ入りました。そして私はそのまま店に残り、No.1になりましたが……正直、面倒だったんです」
「面倒……?」
「私をよく思わないホストも一定数いて、嫉妬や反感を買うことが多かったんですよ。慶太さんがいたから争い事は起こらなかったけど、彼が居なくなった途端、嫌がらせは増えていきました」

 人気商売である以上、それは避けられないことだったのだろう。

 それを分かっているからこそ、昴は早々に身を引いたようだ。

「慶太さんも居なくなって店に居続ける理由も無くなったので、数ヶ月で辞めたんです」
「……それで、七鳳組へ?」
「ええ」

 昴は静かに頷いた。

「私は慶太さんのことを、本当に兄のように慕っていたので。自分も七鳳組に入れて欲しいと伝えたんです」
「……慶太さんは、なんて?」
「最初は反対されましたよ。“お前はこっちの世界に来るな”と。けど、私がどうしても入りたいと言い続けていたら、それを聞いた組長が、“面白い男だ”と快諾してくれましてね。そのお陰で、私は再び慶太さんと同じ場所で過ごすことになったんです」

 そこで一旦、昴は言葉を止めた。

 ここまでの話で分かったことは、昴が心の底から慶太を慕っていたということ。

 彼と居たいが為に、極道の世界に足を踏み入れる程に。
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