極道シングルファザーの甘く危険な独占愛
「……私、兄に盗聴器を仕掛けられた時も、騙されて借金を押し付けられた時も……どうしてって思ったし、信じられないって思いました。でも……それでも、何か理由があるのかなって……そんな風に思ってしまう自分がいて……」

 羽衣子の話を昴は何も言わず、ただ黙って聞いていた。

「だから、会って直接聞けたらって思ってたんです……。どうしてこんなことをしたのか、何か理由があるんじゃないかって……」

 そこまで言って、羽衣子の声が震えた。

「……でも……今日のことで、その気持ちは……無くなりました」

 ベランダから侵入してきた男たち。

 怯えて泣く希海の姿。

 自分たちを守ろうと傷付いた乙哉。

 あの光景が脳裏へ蘇り、羽衣子は小さく息を詰まらせた。

「私は、騙されても……危害を加えられても、仕方ないって思ってたんです」
「…………」
「でも、希海くんや広瀬さん、それに、京極さんにまで危険が迫るのは……見過ごせません……私のせいで、誰かが傷つくのは嫌なんです……」

 そう言って俯いた羽衣子を昴は静かに見つめ、そして、ゆっくり口を開く。

「……吾妻さんの思いは分かりました。ですが、それは私としても同じことです」

 その言葉に羽衣子が顔を上げる。

「俺からすれば、希海は勿論……貴方が傷つけられたら黙っていられません」
「…………っ」
「どんな理由があったとしても、騙していい理由にはならない。危害を加えていい理由にもならない。吾妻さん、貴方は本当に優し過ぎるんです」
「そんな、ことは……」
「貴方からすれば、お兄さんは血を分けた兄妹で……唯一の肉親かもしれない、けれど――」

 と、そこで言葉を切った昴は、少しだけ言いにくそうに言葉を続けていった。

「……お兄さんの方は、もう同じようには思っていないんじゃないかと……私は思います。本当に大切に思っているなら、貴方を危険に晒すような真似はしない」
「…………そう、ですよね……」

 昴の言葉を聞いた羽衣子は小さく頷いた。

 羽衣子自身、本当は分かっていたのだ。

 昔の優しかった兄は、もう居ないのだと。

 環境は人を変える。

 兄は、変わってしまったのだと。

 それでも信じたかった。

 心のどこかでは後悔しているのではないか。

 まだ、自分を妹として思ってくれているのではないか。

 そんな淡い期待を捨てきれなかった。

 けれど、今夜の出来事が全てを突き付けた。

 兄にとって今の自分は、“妹”ではない。

 金を得るための都合のいい駒で、利用価値のある道具、ただ、それだけなのだと。

「……ごめんなさい……」

 羽衣子は震える声で呟いた。

「私のせいで、京極さんや、希海くんや……組織の人たちまで巻き込んでしまって……」

 今回のことは全て自分が原因だと羽衣子は思っていた。

 自分と関わったせいで、皆が危険な目に遭っているのだと。

 けれど、実際にはもう話はそこまで単純では無かった。

 確かに発端は想汰が羽衣子を金の為に売ったことが始まりで、たまたま関わりがあった昴が羽衣子を放っておけずに今回の問題に入り込み、そこで七鳳組と敵対している稲見組が絡んでいたことを知った、それだけだったものの稲見組からすれば七鳳組の存在は邪魔以外の何物でもなく、組織同士が絡んでしまっている今、互いに後には引けないところまで来てしまっていたのだ。
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