5倍に薄める幸せ
DILUTION 00 私には重すぎる…
橘とのデートから1ヶ月後。結局私はあの男に逆らうことができなかった。濃厚な愛情を向けられるあまり、気付けば裸の写真を撮ることまで許してしまった…
カシャ…!カシャ…!
「よし!じゃあ次は右脚を伸ばしてもらおっか?」
「こうですか?」
「いいよいいよ〜そのままキープして!」
カシャ…!
誰か私を止めて…!私はこの1ヶ月で5kgも太ってしまった。橘が最高と言っていたたるんだお腹が常にある状態だ。体重が重くなれば片脚で立つことすら難しくなり
「ヤバい崩れる…!キャッ…」
バタン…
「ほらダメじゃないか?あと数十枚は撮らなきゃ…君の良い画が決まらない…あぁ!ちょっと待って!一旦その姿勢にしてて!」
「ちょっと待って!流石に丸見えよ!?」
「ヌード写真は全てさらけ出すものさ!その顔もまさにシャッターチャンスだ!」
「やめて!その写真だけはやめて…!」
「ほら動かない動かないよ!」
カシャ…!カシャ…!カシャ…!
翌日。
「おはようございます…」
「おはよう!」
「……」
ゴロゴロ…スッ…
いつもより元気がない彼女に社員たちからの視線が集まる。ヘアメイクしているような状態じゃない格好に社員たちは
「ねぇ…最近夢野さん元気なくない?」
「何かあったのかな…?」
ザワザワ…
彼女は誰かが噂していても一切振り向かない。気にするほど余裕がなくなっているのだ。そんな中でも一番心配しているのは先輩社員の椎名もか(29)と部長の山本裕貴(37)。山本部長は彼女の自社商品であるAQUASTYLEを全国展開すると決定した人だ。既に店頭に並んでいて売上げも伸びているというのに…
「何か知らないのか?」
「いえ…でも確か会議の日から元気がないんですよねぇ」
「会議から?そんなバカな…」
会議の結果は絶好調だってのにあそこまで落ち込むのはおかしい。
「失礼だけどさ…夢野さん太った気しないか?」
「…確かに…」
2人が彼女のことについて気にかけている最中
「夢野さーん!夢野さん!」
「はい…?」
「何かこれお届け物です」
「お届け物…?」
その光景を見た椎名はさり気なく近付いた。
「澪どうしたのそれぇ?ちゃんと澪宛じゃん!」
ブルブルブル…
「どうしたの?」
「すいません先輩…!代わりに開けてくれませんか?」
「私?まぁいいけど…自分で開けなくていいの?」
「お願いします…!」
「わかったわ…」
椎名は梱包されている段ボールのテープを剥がして恐る恐る開封する。そしたらフルーツと生クリームのような匂いが最初に感じた。
コトン…
「これって…ケーキじゃないの?」
「ケーキ…!?」
何と箱に入っていたのは保冷剤でしっかりと保存されていたチョコレートケーキ。だが明らかに素人が作ったのか生クリームはベチャベチャで、どこからフォークを入れたらいいのかすらわからない。
「何か入ってる…」
「何ですか…?」
「何かメッセージカード…」
何とそこに書かれていたのは全身に鳥肌が立つ内容だった。
「甘い物食べたくなったでしょ?君のために一生懸命作ったんだ!いっぱい食べて俺の理想のボディになってね♡」
「何なのよこれ…」
「彼氏?っていうかこれ澪のストーカーなんじゃないの!?」
ストーカーという言葉が聞こえた山本部長も我慢できなくなり彼女のもとへ駆け寄る。
「送り先とか書いてないのか!?」
「ダメです…匿名で送られてます…」
「何だって…誰がこんなことを!?」
「心当たりとかないの?」
「そんなないですよ…私…誰とも付き合ってないですから…!」
こんなものを送るのはアイツしかいない…橘優真だ!付き合って1ヶ月だけど私の心はもう限界…!誰か助けて…そんなとき私のスマホに1枚の写真が送られた。それは昨日撮られた私のヌード写真…しかも丸見えのやつだった…
俺の名前は鏡幸人(27)。都内の喫茶店、余白を営むオーナーです。余白とは仕事や人間関係に疲れた方が来店されることが多い。来ていただいたお客様には誠心誠意おもてなしをするが、俺でよければ悩みだって聞いてあげる。仕事でもあるが俺の生き甲斐だ。
「オーナー!開店の準備できました!」
「ありがとう。じゃあそろそろお店開けよっか?」
カランカラン…
「3名いけるかな?」
「はい!ちょうど今開いたところですよ!どうぞ!いらっしゃいませ!」
オープンから早速女性のお客様3名様が来店。今日は日曜日のため、日頃の疲れを癒やそうとレトロな空間の余白が心の隙間を埋めてくれる。
「ご注文お決まりですか?」
「私はいつものナポリタンセットとレモンソーダ!」
「うちはハヤシとウィンナコーヒー!」
「私は朝食セット!」
「かりこまりま…」
ピピピ…!
「わっ…!?てか何今の…クラクション?」
「駅前でクラクションとか正気…?」
「……」
クラクションの方向へ目を向けると、俺は一人の女性をじっくりと見ていた。後ろ姿だがどこか見覚えのある姿に目が離せなかった。
ピピピピ…!
「ったくうるさっ…!?」
「もう勘弁してほしいわ…あれ鏡さん?」
「オーナー?」
「あぁ…!すいません…ではすぐにお持ちします!」
キッチンの方へ向かい、再び女性のいた方向に目を移しても既にその姿は確認できなかった。それと同時にクラクションを鳴らしていたフェラーリの姿もない。乗っていったのか?こんなにうるさいのを鳴らされたらせっかくの癒しの空間がぶち壊しだ。
「お待たせ致しました!」
「わぁ~お…!やっぱこれだわね!」
「いただきます!」
台無しにされたなら料理の味で心を埋めたらいいだけだ。俺は人の心を埋めることは得意だが、自分の場合は違う。自分では心の隙間を埋めることができない。むしろ余白というのは俺自身の心の余白を意味している。それでも、俺はある女性には余白になれなかった…
ゴシゴシ…ジャブジャブ…
俺が余白になれなかった一人の女性、夢野澪。俺は昔からあの人のことが好きだった。会いたい気持ちがあっても何て謝ればいいかわからない以上それまでだ。それでも、俺は何も考えていないわけではない。また一緒になれるチャンスが来たら、俺は間違いなく手を伸ばすだろう。例え遠くにいても…
再び時は戻り澪の退勤時間
「お疲れ様です…」
結局ケーキに手を付けることはなく廃棄したが、また送られてくるんじゃないかと不安になる。それにしても何で私を太らせようと思うのだろうか?一口だけクリームを舐めてみたが明らかに本来の甘さではなく、砂糖を何倍溶かしたと思うくらい甘すぎて食べられたものではない。
カツ…カツ…
ケーキ攻撃のせいで私がこんなに太った理由はきっと察している。あいつ本当に何がしたいのよ!?ダメだ…もうちょっと歩くだけでも疲れちゃう。私ダイエットの知識とかないしなぁ〜ってヤバ…
ブーン…ピピピ…!
「お疲れさん!乗ってけよ!」
「だからクラクションはやめてって言ったじゃん!?」
このまま言い争っていたら他の社員さんに見付かる…!何故か何も言うことなく乗り込んでしまった。
「早く出して…!」
「今日何か積極的じゃん?」
ブーン…
急いで車を出させたが、フェラーリに乗り込んで発進する姿を見ていた人がいた。それは
「夢野さん…!?」
ダッダッダッ…!
山本部長は自慢の部下の危機を見過ごすことができない性質。このときフェラーリを走らせていた金髪?風の男が澪を悩ませていると睨み始める。だが急加速で走らせた車のナンバーの視認には至らなかった。
ブーン…!
「……」
「ケーキ美味しかったかな?」
「えぇ…!?うん…凄ぃ甘かった…かな…」
「甘くて美味しかったかぁ〜よかった作った甲斐あるよぉ」
もう何から言い出せばいいかわからない。職場に物を送り付けるのをやめてほしい、頼んでもいないのに迎えに来ないでほしい、もう別れたい…それともう一つ
「はいっ…これプレゼント」
「もうやめて…!あっ…」
ヤバい言ってしまった…!私はここ数日で一番背筋が凍る瞬間を経験した。
「受け取れないか…?」
ドキ…ドキ…ドキ…!!
「いや…その…!だって毎回なんて申し訳ないし…!」
最初こそ喜んで受け取ったけれど今じゃ鬱陶しいアピール攻撃。
「そっか…なら美味しいものでも食べよっか?」
「……」
私は遂にコイツは宇宙人なんじゃないかと疑い始めた。嫌って言っている意味を本質的に理解していない。元カレは本当に愛想がなかったけど、常に私の意見を尊重してくれた。現状に不満を持つと元カレのことを考えてしまうなんて私は愚かな女…
ブーン…!
もう速度超過当たり前も慣れてしまった。それが即ち、感覚そのものが崩れているとも知らずに…
カチャッ…バタンッ…
「……」
「今日はピザ取ったよ。しかもLサイズ2枚にチキンもセットだ!」
ジャケットを脱ぐとお腹がワイシャツの上からでもたるんでいるのがわかる。
ピンポーン!
「おっ…来たよ来たよ!」
「……」
届いたピザはペペロンみたいにニンニクの匂いがキツいのとガーリックポテトミックス。しかもフライドチキン…これ何本あるのよ!?
「さあこっからここ食べな!俺はこっちの方〜…」
差し出されたピザはLサイズを1枚一人で食べろと言われているようなもの。さらにチーズがトッピングされており、濃厚な味と水分のないポテトが口の中を急激に渇かす。
「うぅ~…」
「喉渇いたか?ちょっと待っててね」
カラカラ…ポトポト…
「お待たせ…」
「あ…ありがとう…」
グラスに入っているのはロックアイスと白い飲み物。カルピスかな?とにかく喉が渇いていた私は飲み物を勢い良く飲んだ…
ゴク…
「うぅ!ブフゥ…!?何これ…!?まさか原液…!?ゴホッ…ゴホッ…!」
「濃厚で美味しいだろ?」
信じられない…原液のカルピスは本来5倍に薄めて飲むもの。全く希釈されていないものを飲んだ私の喉は限界を迎えた。
「本当ごめん…!」
ドッドッドッ…!
私はトイレに駆け込んで今日の消化されていない分を全て吐き戻してしまった…
「はぁ…はぁ…!ゴホッ…!」
「全部食べなきゃダメじゃないか?」
「もう…食べれないよ…苦しい…!」
「そっか…無理なら、仕方ないな…」
「何するの…?」
「何?野暮なことはしないよ」
「お願い…やめて…!」
私は橘優真に濃縮された、いや歪んだ愛情を向けられ続ける。こんな食生活していたら私死んじゃう…!危険なことはわかっているのに、逃げ出せないほど私はアイツの"沼"にハマっていた…危険なのに愛したい…私の恋愛に対する価値観は壊れていた。わかっているのに…
カシャ…!カシャ…!
「よし!じゃあ次は右脚を伸ばしてもらおっか?」
「こうですか?」
「いいよいいよ〜そのままキープして!」
カシャ…!
誰か私を止めて…!私はこの1ヶ月で5kgも太ってしまった。橘が最高と言っていたたるんだお腹が常にある状態だ。体重が重くなれば片脚で立つことすら難しくなり
「ヤバい崩れる…!キャッ…」
バタン…
「ほらダメじゃないか?あと数十枚は撮らなきゃ…君の良い画が決まらない…あぁ!ちょっと待って!一旦その姿勢にしてて!」
「ちょっと待って!流石に丸見えよ!?」
「ヌード写真は全てさらけ出すものさ!その顔もまさにシャッターチャンスだ!」
「やめて!その写真だけはやめて…!」
「ほら動かない動かないよ!」
カシャ…!カシャ…!カシャ…!
翌日。
「おはようございます…」
「おはよう!」
「……」
ゴロゴロ…スッ…
いつもより元気がない彼女に社員たちからの視線が集まる。ヘアメイクしているような状態じゃない格好に社員たちは
「ねぇ…最近夢野さん元気なくない?」
「何かあったのかな…?」
ザワザワ…
彼女は誰かが噂していても一切振り向かない。気にするほど余裕がなくなっているのだ。そんな中でも一番心配しているのは先輩社員の椎名もか(29)と部長の山本裕貴(37)。山本部長は彼女の自社商品であるAQUASTYLEを全国展開すると決定した人だ。既に店頭に並んでいて売上げも伸びているというのに…
「何か知らないのか?」
「いえ…でも確か会議の日から元気がないんですよねぇ」
「会議から?そんなバカな…」
会議の結果は絶好調だってのにあそこまで落ち込むのはおかしい。
「失礼だけどさ…夢野さん太った気しないか?」
「…確かに…」
2人が彼女のことについて気にかけている最中
「夢野さーん!夢野さん!」
「はい…?」
「何かこれお届け物です」
「お届け物…?」
その光景を見た椎名はさり気なく近付いた。
「澪どうしたのそれぇ?ちゃんと澪宛じゃん!」
ブルブルブル…
「どうしたの?」
「すいません先輩…!代わりに開けてくれませんか?」
「私?まぁいいけど…自分で開けなくていいの?」
「お願いします…!」
「わかったわ…」
椎名は梱包されている段ボールのテープを剥がして恐る恐る開封する。そしたらフルーツと生クリームのような匂いが最初に感じた。
コトン…
「これって…ケーキじゃないの?」
「ケーキ…!?」
何と箱に入っていたのは保冷剤でしっかりと保存されていたチョコレートケーキ。だが明らかに素人が作ったのか生クリームはベチャベチャで、どこからフォークを入れたらいいのかすらわからない。
「何か入ってる…」
「何ですか…?」
「何かメッセージカード…」
何とそこに書かれていたのは全身に鳥肌が立つ内容だった。
「甘い物食べたくなったでしょ?君のために一生懸命作ったんだ!いっぱい食べて俺の理想のボディになってね♡」
「何なのよこれ…」
「彼氏?っていうかこれ澪のストーカーなんじゃないの!?」
ストーカーという言葉が聞こえた山本部長も我慢できなくなり彼女のもとへ駆け寄る。
「送り先とか書いてないのか!?」
「ダメです…匿名で送られてます…」
「何だって…誰がこんなことを!?」
「心当たりとかないの?」
「そんなないですよ…私…誰とも付き合ってないですから…!」
こんなものを送るのはアイツしかいない…橘優真だ!付き合って1ヶ月だけど私の心はもう限界…!誰か助けて…そんなとき私のスマホに1枚の写真が送られた。それは昨日撮られた私のヌード写真…しかも丸見えのやつだった…
俺の名前は鏡幸人(27)。都内の喫茶店、余白を営むオーナーです。余白とは仕事や人間関係に疲れた方が来店されることが多い。来ていただいたお客様には誠心誠意おもてなしをするが、俺でよければ悩みだって聞いてあげる。仕事でもあるが俺の生き甲斐だ。
「オーナー!開店の準備できました!」
「ありがとう。じゃあそろそろお店開けよっか?」
カランカラン…
「3名いけるかな?」
「はい!ちょうど今開いたところですよ!どうぞ!いらっしゃいませ!」
オープンから早速女性のお客様3名様が来店。今日は日曜日のため、日頃の疲れを癒やそうとレトロな空間の余白が心の隙間を埋めてくれる。
「ご注文お決まりですか?」
「私はいつものナポリタンセットとレモンソーダ!」
「うちはハヤシとウィンナコーヒー!」
「私は朝食セット!」
「かりこまりま…」
ピピピ…!
「わっ…!?てか何今の…クラクション?」
「駅前でクラクションとか正気…?」
「……」
クラクションの方向へ目を向けると、俺は一人の女性をじっくりと見ていた。後ろ姿だがどこか見覚えのある姿に目が離せなかった。
ピピピピ…!
「ったくうるさっ…!?」
「もう勘弁してほしいわ…あれ鏡さん?」
「オーナー?」
「あぁ…!すいません…ではすぐにお持ちします!」
キッチンの方へ向かい、再び女性のいた方向に目を移しても既にその姿は確認できなかった。それと同時にクラクションを鳴らしていたフェラーリの姿もない。乗っていったのか?こんなにうるさいのを鳴らされたらせっかくの癒しの空間がぶち壊しだ。
「お待たせ致しました!」
「わぁ~お…!やっぱこれだわね!」
「いただきます!」
台無しにされたなら料理の味で心を埋めたらいいだけだ。俺は人の心を埋めることは得意だが、自分の場合は違う。自分では心の隙間を埋めることができない。むしろ余白というのは俺自身の心の余白を意味している。それでも、俺はある女性には余白になれなかった…
ゴシゴシ…ジャブジャブ…
俺が余白になれなかった一人の女性、夢野澪。俺は昔からあの人のことが好きだった。会いたい気持ちがあっても何て謝ればいいかわからない以上それまでだ。それでも、俺は何も考えていないわけではない。また一緒になれるチャンスが来たら、俺は間違いなく手を伸ばすだろう。例え遠くにいても…
再び時は戻り澪の退勤時間
「お疲れ様です…」
結局ケーキに手を付けることはなく廃棄したが、また送られてくるんじゃないかと不安になる。それにしても何で私を太らせようと思うのだろうか?一口だけクリームを舐めてみたが明らかに本来の甘さではなく、砂糖を何倍溶かしたと思うくらい甘すぎて食べられたものではない。
カツ…カツ…
ケーキ攻撃のせいで私がこんなに太った理由はきっと察している。あいつ本当に何がしたいのよ!?ダメだ…もうちょっと歩くだけでも疲れちゃう。私ダイエットの知識とかないしなぁ〜ってヤバ…
ブーン…ピピピ…!
「お疲れさん!乗ってけよ!」
「だからクラクションはやめてって言ったじゃん!?」
このまま言い争っていたら他の社員さんに見付かる…!何故か何も言うことなく乗り込んでしまった。
「早く出して…!」
「今日何か積極的じゃん?」
ブーン…
急いで車を出させたが、フェラーリに乗り込んで発進する姿を見ていた人がいた。それは
「夢野さん…!?」
ダッダッダッ…!
山本部長は自慢の部下の危機を見過ごすことができない性質。このときフェラーリを走らせていた金髪?風の男が澪を悩ませていると睨み始める。だが急加速で走らせた車のナンバーの視認には至らなかった。
ブーン…!
「……」
「ケーキ美味しかったかな?」
「えぇ…!?うん…凄ぃ甘かった…かな…」
「甘くて美味しかったかぁ〜よかった作った甲斐あるよぉ」
もう何から言い出せばいいかわからない。職場に物を送り付けるのをやめてほしい、頼んでもいないのに迎えに来ないでほしい、もう別れたい…それともう一つ
「はいっ…これプレゼント」
「もうやめて…!あっ…」
ヤバい言ってしまった…!私はここ数日で一番背筋が凍る瞬間を経験した。
「受け取れないか…?」
ドキ…ドキ…ドキ…!!
「いや…その…!だって毎回なんて申し訳ないし…!」
最初こそ喜んで受け取ったけれど今じゃ鬱陶しいアピール攻撃。
「そっか…なら美味しいものでも食べよっか?」
「……」
私は遂にコイツは宇宙人なんじゃないかと疑い始めた。嫌って言っている意味を本質的に理解していない。元カレは本当に愛想がなかったけど、常に私の意見を尊重してくれた。現状に不満を持つと元カレのことを考えてしまうなんて私は愚かな女…
ブーン…!
もう速度超過当たり前も慣れてしまった。それが即ち、感覚そのものが崩れているとも知らずに…
カチャッ…バタンッ…
「……」
「今日はピザ取ったよ。しかもLサイズ2枚にチキンもセットだ!」
ジャケットを脱ぐとお腹がワイシャツの上からでもたるんでいるのがわかる。
ピンポーン!
「おっ…来たよ来たよ!」
「……」
届いたピザはペペロンみたいにニンニクの匂いがキツいのとガーリックポテトミックス。しかもフライドチキン…これ何本あるのよ!?
「さあこっからここ食べな!俺はこっちの方〜…」
差し出されたピザはLサイズを1枚一人で食べろと言われているようなもの。さらにチーズがトッピングされており、濃厚な味と水分のないポテトが口の中を急激に渇かす。
「うぅ~…」
「喉渇いたか?ちょっと待っててね」
カラカラ…ポトポト…
「お待たせ…」
「あ…ありがとう…」
グラスに入っているのはロックアイスと白い飲み物。カルピスかな?とにかく喉が渇いていた私は飲み物を勢い良く飲んだ…
ゴク…
「うぅ!ブフゥ…!?何これ…!?まさか原液…!?ゴホッ…ゴホッ…!」
「濃厚で美味しいだろ?」
信じられない…原液のカルピスは本来5倍に薄めて飲むもの。全く希釈されていないものを飲んだ私の喉は限界を迎えた。
「本当ごめん…!」
ドッドッドッ…!
私はトイレに駆け込んで今日の消化されていない分を全て吐き戻してしまった…
「はぁ…はぁ…!ゴホッ…!」
「全部食べなきゃダメじゃないか?」
「もう…食べれないよ…苦しい…!」
「そっか…無理なら、仕方ないな…」
「何するの…?」
「何?野暮なことはしないよ」
「お願い…やめて…!」
私は橘優真に濃縮された、いや歪んだ愛情を向けられ続ける。こんな食生活していたら私死んじゃう…!危険なことはわかっているのに、逃げ出せないほど私はアイツの"沼"にハマっていた…危険なのに愛したい…私の恋愛に対する価値観は壊れていた。わかっているのに…


