あの人が来ると、空気が変わる―正論では、人は動かない―
■第9話 ちゃんとやってるのに、ダメなの?
昼休み。
教室の床に、ほうきとちりとりが並んでいる。
「じゃあ掃除はじめてください」
先生の声。
子どもたちが、それぞれ動き出す。
湊は、ほうきを持つ。
(こうやって…)
床をはく。
ちゃんと、先生が言ってた通りに。
前に動かして、
ゴミを集める。
(できてる)
そう思った、その時。
「ちょっと!」
声が飛んだ。
「ちゃんとしてよ!」
振り向くと、同じクラスの女の子が立っている。
腕を組んで、少しイライラした顔。
「え…?」
「そこ、まだゴミあるじゃん」
指をさされる。
見ると、
確かに少し残っている。
「ちゃんと見てやらないとダメでしょ」
――ちゃんとやってるのに。
言葉が出てこない。
「……」
黙って、また掃く。
でも、
さっきよりも、うまくできない。
(ちゃんと…ちゃんと…)
頭の中で、その言葉だけが回る。
その時。
「ちょっといい?」
聞き覚えのある声。
振り向くと、あの女性が立っていた。
「……」
もう、驚かない。
女性は、床を見る。
「掃除してるんだね」
「…はい」
小さく答える。
「ちゃんとやってる?」
「やってます」
少しだけ強く言う。
女性は、少しだけうなずいた。
「うん、やってるね」
その一言で、
胸の奥が少し軽くなる。
「でもさ」
少しだけ続ける。
「“ちゃんとやる”って、人によって違うんだよ」
――え?
顔を上げる。
「先生の“ちゃんと”と」
さっきの女の子の方を見る。
「その子の“ちゃんと”も違う」
頭の中が、少し混乱する。
「じゃあどうすればいいの?」
思わず聞く。
女性は、やさしく言った。
「“どこまでやればいいか”聞けばいい」
シンプルだった。
でも、
それだけだった。
湊は、少し考えて、
さっきの女の子の方を見る。
「あの…」
声をかける。
少しドキドキする。
「どこまでやったらいい?」
女の子は、一瞬びっくりした顔をした。
「え?」
「ここ全部?」
指をさす。
女の子は、少し考えてから、
「うん、そのへん全部」
と答えた。
「分かった」
もう一度、ほうきを持つ。
さっきよりも、
やることがはっきりしている。
(ここまで)
そう思いながら、掃く。
さっきより、やりやすい。
「…できた」
小さくつぶやく。
女の子が、ちらっと見る。
「うん、いいんじゃない?」
さっきより、少しだけやわらかい声。
――あれ?
さっきのムカムカが、
少し消えている。
顔を上げると、
もう女性の姿はなかった。
でも、
掃除のやり方が、
少しだけ分かった気がした。
教室の床に、ほうきとちりとりが並んでいる。
「じゃあ掃除はじめてください」
先生の声。
子どもたちが、それぞれ動き出す。
湊は、ほうきを持つ。
(こうやって…)
床をはく。
ちゃんと、先生が言ってた通りに。
前に動かして、
ゴミを集める。
(できてる)
そう思った、その時。
「ちょっと!」
声が飛んだ。
「ちゃんとしてよ!」
振り向くと、同じクラスの女の子が立っている。
腕を組んで、少しイライラした顔。
「え…?」
「そこ、まだゴミあるじゃん」
指をさされる。
見ると、
確かに少し残っている。
「ちゃんと見てやらないとダメでしょ」
――ちゃんとやってるのに。
言葉が出てこない。
「……」
黙って、また掃く。
でも、
さっきよりも、うまくできない。
(ちゃんと…ちゃんと…)
頭の中で、その言葉だけが回る。
その時。
「ちょっといい?」
聞き覚えのある声。
振り向くと、あの女性が立っていた。
「……」
もう、驚かない。
女性は、床を見る。
「掃除してるんだね」
「…はい」
小さく答える。
「ちゃんとやってる?」
「やってます」
少しだけ強く言う。
女性は、少しだけうなずいた。
「うん、やってるね」
その一言で、
胸の奥が少し軽くなる。
「でもさ」
少しだけ続ける。
「“ちゃんとやる”って、人によって違うんだよ」
――え?
顔を上げる。
「先生の“ちゃんと”と」
さっきの女の子の方を見る。
「その子の“ちゃんと”も違う」
頭の中が、少し混乱する。
「じゃあどうすればいいの?」
思わず聞く。
女性は、やさしく言った。
「“どこまでやればいいか”聞けばいい」
シンプルだった。
でも、
それだけだった。
湊は、少し考えて、
さっきの女の子の方を見る。
「あの…」
声をかける。
少しドキドキする。
「どこまでやったらいい?」
女の子は、一瞬びっくりした顔をした。
「え?」
「ここ全部?」
指をさす。
女の子は、少し考えてから、
「うん、そのへん全部」
と答えた。
「分かった」
もう一度、ほうきを持つ。
さっきよりも、
やることがはっきりしている。
(ここまで)
そう思いながら、掃く。
さっきより、やりやすい。
「…できた」
小さくつぶやく。
女の子が、ちらっと見る。
「うん、いいんじゃない?」
さっきより、少しだけやわらかい声。
――あれ?
さっきのムカムカが、
少し消えている。
顔を上げると、
もう女性の姿はなかった。
でも、
掃除のやり方が、
少しだけ分かった気がした。