あの人が来ると、空気が変わる―正論では、人は動かない―
■第6話 みんな正しいのに、なんでこんなにうまくいかないの?
夕方。
リビングには、それぞれの音が重なっていた。
テレビの音。
ゲームの音。
タブレットの動画。
キッチンでは、フライパンの音。
「ちょっと、もうご飯できるよ!」
美咲が声をかける。
「あとでー」
恒一が返す。
目は画面のまま。
「今って言ってるでしょ?」
「今無理!」
少し強い声。
その横で、陽菜はスマホを見ながら、前髪をいじっている。
湊はゲームに夢中。
「ねえ、みんな一回止めて」
声を強める。
「ご飯の時くらいちゃんとしようよ!」
その時。
「今やってるって言ってるやん」
恒一がイラッとした声で言う。
「毎回毎回、タイミング悪いねん」
――え?
言葉が刺さる。
「タイミングって…」
「だって今いいとこやし」
「じゃあいつならいいの?」
「知らん!」
空気が一気に荒れる。
その時、リビングのドアが開く。
「ただいま」
悠斗が帰ってきた。
「あ、おかえり」
美咲が振り向く。
「ちょうどいいとこ。ご飯できてるから」
「今?」
悠斗が少し顔をしかめる。
「ちょっと休んでからでもいい?」
――は?
「みんな同じこと言うやん!」
思わず声が上がる。
「なんで誰も今やろうとしないの!?」
「いや、俺は仕事終わりで…」
「だから何!?こっちはずっとやってるけど!?」
ピリッと空気が張り詰める。
子どもたちも、動きを止める。
「なんでみんな、自分のことばっかりなん!?」
言った瞬間、
しまった、と思った。
でも、もう止まらない。
「ママだって自分のことばっかやん」
ぽつり、と陽菜が言った。
「え…?」
「ちゃんとしてって言うけどさ」
恒一が続く。
「ママのタイミング押しつけてるだけやん」
言葉が、重なる。
――違う。
そんなつもりじゃない。
でも、
言い返せない。
「…もういい」
思わず背を向ける。
キッチンに戻ろうとした、その時。
「ちょっといい?」
静かな声。
振り向くと、あの女性が立っていた。
「……」
もう驚かない自分がいる。
女性は、リビングを一度見渡した。
「今のさ」
少しだけ笑う。
「全員、正しいよね」
――え?
「ママは“ちゃんとしてほしい”」
美咲を見る。
「子どもは“今やってること大事”」
子どもたちを見る。
「パパは“ちょっと休みたい”」
悠斗を見る。
「全部、間違ってない」
誰も、何も言えない。
「でも」
少し間を置く。
「全部、“自分のタイミング”なんだよね」
――あ。
空気が、少し変わる。
「自分は正しいって思ってるから」
静かに続ける。
「相手がズレてるように見える」
誰も否定できない。
「じゃあどうするか」
女性は、ゆっくり言った。
「“誰のタイミングに合わせるか”じゃなくて」
一拍置く。
「“みんなで決める”」
シンプルだった。
でも、
それだけだった。
「例えばさ」
女性は軽く手を叩く。
「ご飯の時間、どうする?」
誰もすぐには答えない。
でも、
さっきとは違う沈黙だった。
「…7時とか?」
湊が小さく言う。
「それならキリいいかも」
恒一が続く。
「私もそれなら大丈夫」
陽菜が言う。
悠斗がうなずく。
「それなら帰って少し休める」
美咲は、そのやり取りを見ていた。
――あぁ。
「決める」って、こういうことか。
「じゃあ、7時ね」
自然とそう言葉が出る。
さっきまでのイライラが、少しだけ消えている。
女性は、その様子を見て、ふっと笑った。
「ね?」
その一言だけ残して、
いつの間にか姿は消えていた。
リビングには、
少しだけ整った空気と、
静かな時間が流れていた。
リビングには、それぞれの音が重なっていた。
テレビの音。
ゲームの音。
タブレットの動画。
キッチンでは、フライパンの音。
「ちょっと、もうご飯できるよ!」
美咲が声をかける。
「あとでー」
恒一が返す。
目は画面のまま。
「今って言ってるでしょ?」
「今無理!」
少し強い声。
その横で、陽菜はスマホを見ながら、前髪をいじっている。
湊はゲームに夢中。
「ねえ、みんな一回止めて」
声を強める。
「ご飯の時くらいちゃんとしようよ!」
その時。
「今やってるって言ってるやん」
恒一がイラッとした声で言う。
「毎回毎回、タイミング悪いねん」
――え?
言葉が刺さる。
「タイミングって…」
「だって今いいとこやし」
「じゃあいつならいいの?」
「知らん!」
空気が一気に荒れる。
その時、リビングのドアが開く。
「ただいま」
悠斗が帰ってきた。
「あ、おかえり」
美咲が振り向く。
「ちょうどいいとこ。ご飯できてるから」
「今?」
悠斗が少し顔をしかめる。
「ちょっと休んでからでもいい?」
――は?
「みんな同じこと言うやん!」
思わず声が上がる。
「なんで誰も今やろうとしないの!?」
「いや、俺は仕事終わりで…」
「だから何!?こっちはずっとやってるけど!?」
ピリッと空気が張り詰める。
子どもたちも、動きを止める。
「なんでみんな、自分のことばっかりなん!?」
言った瞬間、
しまった、と思った。
でも、もう止まらない。
「ママだって自分のことばっかやん」
ぽつり、と陽菜が言った。
「え…?」
「ちゃんとしてって言うけどさ」
恒一が続く。
「ママのタイミング押しつけてるだけやん」
言葉が、重なる。
――違う。
そんなつもりじゃない。
でも、
言い返せない。
「…もういい」
思わず背を向ける。
キッチンに戻ろうとした、その時。
「ちょっといい?」
静かな声。
振り向くと、あの女性が立っていた。
「……」
もう驚かない自分がいる。
女性は、リビングを一度見渡した。
「今のさ」
少しだけ笑う。
「全員、正しいよね」
――え?
「ママは“ちゃんとしてほしい”」
美咲を見る。
「子どもは“今やってること大事”」
子どもたちを見る。
「パパは“ちょっと休みたい”」
悠斗を見る。
「全部、間違ってない」
誰も、何も言えない。
「でも」
少し間を置く。
「全部、“自分のタイミング”なんだよね」
――あ。
空気が、少し変わる。
「自分は正しいって思ってるから」
静かに続ける。
「相手がズレてるように見える」
誰も否定できない。
「じゃあどうするか」
女性は、ゆっくり言った。
「“誰のタイミングに合わせるか”じゃなくて」
一拍置く。
「“みんなで決める”」
シンプルだった。
でも、
それだけだった。
「例えばさ」
女性は軽く手を叩く。
「ご飯の時間、どうする?」
誰もすぐには答えない。
でも、
さっきとは違う沈黙だった。
「…7時とか?」
湊が小さく言う。
「それならキリいいかも」
恒一が続く。
「私もそれなら大丈夫」
陽菜が言う。
悠斗がうなずく。
「それなら帰って少し休める」
美咲は、そのやり取りを見ていた。
――あぁ。
「決める」って、こういうことか。
「じゃあ、7時ね」
自然とそう言葉が出る。
さっきまでのイライラが、少しだけ消えている。
女性は、その様子を見て、ふっと笑った。
「ね?」
その一言だけ残して、
いつの間にか姿は消えていた。
リビングには、
少しだけ整った空気と、
静かな時間が流れていた。