友達以上恋人未満

進展

進展

やっと巡り会えた真子。そう思った瞬間、胸の奥で何かが音を立てた。二年間、既読さえつかなかった名前が、今夜、焼肉屋の席に現れる。それは再会というより、止まっていた時間が突然動き出すような出来事だった。私は、何を話せばいいのか分からなかった。
「久しぶり」
たったそれだけの言葉が、喉の奥でつかえていた。

私は、妄想のまっただなかにいたのかもしれない。それでも、目の前の真子は現実だった。相変わらず何食わぬ顔で、肉を網にのせ、焼けた端から口へ運んでいる。その普通さが、かえって私を揺さぶった。二年間、私の中では嵐のように続いていた時間を、真子は何事もなかったように越えてきたのだ。私は箸を持ったまま、彼女の横顔を見つめていた。言わなければ、また終わってしまう。そう思った瞬間、言葉が勝手に口をついて出た。
「今度の日曜日、ドライブに行きませんか」
真子は肉を噛む手を止め、少しだけこちらを見た。
「いいよ」この瞬間、二年間の空白が全て埋まった。なんとこの一言のために大回りをしたのだろうか。
数日後
春らしいコーディネートで現れた真子は、以前の彼女とはどこか違って見えた。淡いベージュのコートに、やわらかな白のブラウス。膝丈のスカートが軽やかに揺れ、そのたびに春の空気をまとっているようだった。足元はシンプルなパンプスで、派手さはないのに、妙に目を引く。髪は肩のあたりで整えられ、光を受けてわずかに茶色く透ける。横顔にかかるその一本一本が、どこか触れてはいけないもののように思えた。
「久しぶり」
そう言って微笑む真子の声は、あの頃と変わらないはずなのに、少しだけ遠く感じた。私は思わず視線を逸らした。あまりにも“普通に綺麗”だったからだ。二年間、頭の中で膨らませていた真子とは違う。けれど、目の前にいる彼女の方が、ずっと現実的で、そして残酷だった。助手席に乗り込んだ真子は、シートベルトを締めながら、何気ない口調で言った。
「どこ行くの?」
その一言で、私は現実に引き戻された。二年間、頭の中で何度もシミュレーションしてきたはずの“再会の瞬間”。しかし、いざその時が来ると、用意していた言葉は一つも出てこなかった。
「海でも…行こうか」
自分でも驚くほどありきたりな答えだった。エンジン音だけが車内に響く。ラジオをつけると、偶然にも流れてきたのは、西野カナの曲だった。真子は小さく笑った。
「懐かしいね」
その一言に、胸の奥で何かが崩れた。あの頃、自分の中で神格化されていた“彼女”は、今、隣でただの「懐かしいね」と言う一人の女性になっていた。信号待ちで横を見る。真子はスマホを見ている。誰かとLINEをしているのかもしれない。その姿に、ふと気づく。
自分は、この人の“全部”を知っているわけじゃない。むしろ、知らないことの方が圧倒的に多い。
二年間、膨らませ続けた想いは、現実の彼女とは少しずつズレていた。真子とはこの食事を最後に会うことはなかった。だが龍太郎の中では、まだ真子は終わっていなかった。彼女は恋人ではなく、運命でもなく、ただ一度だけ人生の暗闇に差した光だった。二年間追い続けたものは、真子ではなく、真子に救われたい自分自身だったのかもしれない。
< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop