僕の秘密と、彼女の嘘

Epilogue

「そうだ、学祭、見にきてね!」

駅へ向かう坂道の途中で、七瀬がくるりと振り返った。

茜色に染まる空。
栗色の髪が夕陽を受けてやわらかく光る。

いつもと同じ笑顔。
――ただし今日は、制服姿の"男バージョン"。

「どうしたの? この前は歯切れ悪かったのに」

「……だって、この制服姿、見られたくなかったから」

七瀬の視線が、ほんの一瞬だけ揺れる。

あの日、この場所で見せた泣きそうな表情が、ふとよぎった。
あれは迷いじゃなくて、罪悪感だったんだ。

僕に、嘘をついていることへの。

「でももう平気。もう響に隠してることはないから」

まっすぐな言葉だった。

胸の奥に残っていた小さな引っかかりが、静かにほどけていく。

七瀬が一歩、近づく。

「これで僕たち、本当の彼氏と彼女だね」

「まだ理解追いついてないけど……」

正直な気持ちだった。

でも、不思議と嫌じゃない。

「それに、どっちが彼氏でどっちが彼女?」

そう聞くと、七瀬は肩をすくめた。

「まぁ、それは臨機応変に♪」

軽やかな声。

決めつけない。縛らない。
その曖昧さが、今は心地いい。

きっとこれからも、迷うことはある。

それでも。

嘘のない今のほうが、ずっといい。

「学祭、ちゃんと行くよ」

そう言うと、七瀬は満足そうにうなずいた。

坂道に伸びるふたりの影は、
夕暮れの中で、どちらがどちらか分からないくらい自然に重なっていた。
< 36 / 36 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop