遅かれ、早かれ、恋になりまして。
そこからは早かった。
さっきまで頭の中を埋め尽くしていた混乱が嘘みたいに、やるべきことが次々整理されていく。
私は急いでまだ稼働していた社内の制作チームへ修正依頼を飛ばし、必要な変更箇所と優先度をまとめて共有する。
有馬さんはその横で、既に別画面を開きながら仕様確認と影響範囲の洗い出しを進めていた。
静まり返った夜のフロアに、キーボードを叩く音だけが規則的に響く。カタカタ、という乾いた音が続くたび、不思議と焦りが少しずつ薄れていった。
時々、有馬さんの低い声が静かに落ちる。
「このタグは既存のままですか」
「はい、そこは変更なしです」
「では問題ないですね」
短い確認。でも、その一つ一つに無駄がない。必要なことだけを正確に拾い上げて、迷いなく処理していく。その横顔を見ていると、自分まで冷静になっていく気がした。
さっきまであんなにパニックになっていたのに、今はちゃんと状況を追えている。
たぶん、有馬さんが落ち着いているからだ。
焦らなくていいと、言葉じゃなく態度で示してくれている気がした。
制作チームから返信が返ってくるたびに確認を進め、修正内容をすり合わせていく。気づけば、さっきまで赤く表示されていた警告項目は一つずつ消えていた。
画面上のステータスが要修正から反映待ちへ切り替わる。その表示を見た瞬間、ずっと張り詰めていた神経がようやく少しだけ緩んだ。
「……いけそうですね」
思わず小さく呟く。すると隣で画面を見ていた有馬さんが、小さく頷いた。
「間に合います」
短い言葉。でも、その一言にはちゃんと確信があった。大丈夫だと断言されるより、その言い方のほうがずっと安心できる。私はその瞬間、ようやく肩から力が抜けるのを感じた。ずっと無意識に入っていた力がゆっくりほどけていく。