遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「……本当に、助かりました」
気づけば自然にそう漏れていた。感謝しなきゃと思ったわけじゃない。ただ、本当にそう思ったから。もし有馬さんが来てくれていなかったら、きっと私は一人でパニックになったまま、まともに判断できなかった。
有馬さんはその言葉に、一瞬だけこちらを見る。
モニターの光を受けた横顔は相変わらず静かで、感情を大きく表に出す人じゃない。でもその目だけが少し柔らかく見えた。
「いえ。呼んでもらえてよかったです」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
まるで、それでよかったんですよ、とでも言うみたいな、穏やかな表情だった。
私は無理を言って、こんな時間に呼び出して、迷惑をかけた側なのに。
なんでこの人は、そんな顔をするんだろう。責めるどころか、安心させるみたいに笑うんだろう。
自分の不甲斐なさにイライラする。
もっとちゃんとできる人だったらよかったのに。
こんなふうに助けてもらわなくても、一人で対処できるくらい仕事ができたらよかったのに。
なのに同時に、有馬さんが来てくれたことが、電話一本でここまで駆けつけてくれたことが、苦しくなるくらい嬉しかった。
あの電話を切ったあと、本当に来てくれるなんて思っていなかった。
取引先の、それもまだ付き合いの浅い相手のために、普通ここまでしてくれるだろうか。そんなことを考えてしまう自分がいる。
でも、勘違いしちゃいけない。有馬さんは別に私を助けたわけじゃない。これは仕事だ。案件を守るための対応で、たまたま私がそこにいただけ。
きっと有馬さんにとっては、その程度のことなんだろう。
私がこんなふうに胸をいっぱいにしているなんて、たぶん想像もしていない。
それなのに私は、隣にいる有馬さんの横顔を見ているだけで、どうしてこんなに苦しくなるんだろう。