遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「明石さん?」
「っ、はい?」
顔をあげると、有馬さんと目が合う。
見られたくない。私のことなんて、視界に入れないでほしい。
有馬さんはスーツの袖を少し直しながら、腕時計に目を落とす。
「遅いし、送ります」
「えっ…」
お、送る!?
「だ、大丈夫です!」
大丈夫!本当に大丈夫です!
「俺と帰るのが怖かったら、タクシー手配しますけど、どうしますか?」
「……あ、えと…」
答えられないまま、段々俯いていく。
これは、有馬さんの優しさだ。いつも一人で帰ってるんだから、大丈夫だと言ったら、有馬さんの優しさを無下にしてしまうことになる。そんなことはしたくない。
だからと言って、タクシーで帰ることはしたくない。お金もかかっちゃうし…。
それに…。
「あ…有馬さんのこと、怖いなんて思ったこと…ないです」
言ってしまってから、心臓が一気に跳ねる。真っ赤な顔で、有馬さんを見上げた。
怖い、なんて思ったことあるわけがない。
「むしろ、私は…」
目の前の有馬さんが、柔らかい表情で、私の言葉を待っている。
綺麗なアーモンド形の瞳に私が映っているのが分かった。
あ…私、有馬さんを見てるとき、こんな顔してるんだ。
そう思ってしまった瞬間、抑えていたはずの感情がブワッと込み上げてきてしまう。
もう、どうしようもなかった。どうしようもなく、有馬さんに近づきたいと思ってしまった。
だって、ずるい。ずるいですよ、有馬さん。
なんで来たんですか。なんで、ここまで面倒見てくれるんですか。放っといてくれればいいのに。
嬉しいのに、嬉しくない。近づきたいのに、これ以上はだめだと思ってしまう。
「帰りましょうか」
有馬さんは、荷物を持ちながら、優しい声を落とす。その声だけで、また胸が揺れる。
帰るって、結局どうやって?
聞けないまま、私は小さく頷くことしかできなかった。