遅かれ、早かれ、恋になりまして。
ふたりで会社を出たものの、無言のまま歩き続けていた。
何か話さなきゃいけない気がするのに、何を話せばいいのか分からなくて、結局そのまま歩幅だけが揃っていく。
気づいたときには、駅のホームに立っていた。
タクシーじゃなかった……このまま電車なんだ……しかも、有馬さんと。
意識すればするほど顔が熱くなっていくのが自分でも分かるし、心臓の音もさっきよりずっと大きくなっている。
有馬さんと出会ってから今日までの中で、今が一番苦しい気がした。
平静を装っているつもりなのに、全部ばれてしまいそうで怖い。
やがて電車がホームに滑り込んできて、風と一緒に独特の音が流れ込んでくる。有馬さんのあとに続く形で、私も慌てて乗り込んだ。
時刻はとっくに9時を回っているのに、金曜日だからか車内は思った以上に混雑していた。
人と人の距離が近くて、それだけでさらに落ち着かない。
有馬さんは自然に私の前に立ち、揺れの中で支えるような位置を取る。
「明石さん、大丈夫ですか?」
「……は、い」
声が少し上ずる。大丈夫なわけがないのに、大丈夫と答えるしかなかった。
有馬さんはそれ以上何も聞かず、ただ軽く視線だけを私に向ける。その一瞬だけで、また胸の奥が変に揺れる。
電車が揺れるたびに、ほんの少し距離が近づいたり離れたりして、そのたびに呼吸の仕方が分からなくなる。
周りの人の気配、アナウンスの声、窓の外に流れていく光。それら全部が遠く感じるのに、目の前の存在だけがやけに鮮明だった。
これ以上意識しちゃだめだって分かってるのに、意識しないほうが無理だった。
私はただ、小さく息を飲んで、視線を床に落とすことしかできなかった。