遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「なんで、優しくするんですか」
優しくしないで。
「なんで、電話一本で駆けつけてきてくれるんですか……!」
来ないでほしかった。無視してほしかった。行けないです、って冷たく切り捨ててほしかった。
そうしてくれたら、まだ普通でいられたのに。
「有馬さんがっ……私に仕事の顔をみせるたびにっ……私はっ……!」
言葉が途切れる。息がうまくできない。胸の奥が苦しくて、なのに止め方が分からない。
寂しいんです、ほんとは。
でも、それを認めるのが一番怖い。もう後戻りできなくなってしまうから。失敗するのが怖いから。
……有馬さんの優しさは、私にだけじゃないって分かってしまうから。
有馬さんの綺麗なアーモンド形の瞳に、今の私はちゃんと映っていた。
ぐしゃぐしゃで、必死で、取り繕えていないままの顔が、そのままそこにあった。
「明石さん」
「……………………はい」
声が出るまでに、数秒かかった。
掴んだ袖はまだ離せていないままなのに、そのことすら今は意識の外に追いやられている。
「俺は、基本やりたくないことはしたくないです。面倒くさいから」
「……はい」
「正直、今の仕事もこだわりがあって続けているわけじゃないです」
「……。」
今まで見てきた有馬さんの、できる人という像が、少しだけ揺れる気がした。
有馬さんは、とにかくなんでもできる人。仕事ができる人。一言でいえば、有能。それから、よく周りを見ている。
初めて見たときに、綺麗だと思うほど、どこか人を惹きつける部分がある。一見、それも相まって冷たそうに見えるけれど、ほんとうはかなり優しい。
でも、それは全部、仕事のときの有馬さんにしかすぎない。