遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「明石さんは、俺のことをどんな人間だと思ってるのか分からないけど」
言葉が落ちる前よりも、空気が少しだけ近くなる。
夜の冷たさが薄くなったような錯覚。
有馬さんは、私の目線に合わせるように少しかがんだ。
ほんのわずかな動きなのに、距離の意味が変わる。
今まで見上げていた視界が、同じ高さになる。
逃げるための角度がなくなるはずなのに、不思議と怖さは増えなかった。むしろ、呼吸の仕方が少しだけ戻る。
見上げなければいけないほどの身長差が、今は簡単に同じになる。
「誰にでも、優しいわけじゃないよ」
有馬さんの真ん中で分かれた前髪が、夜風に少し揺れる。
アーモンド形の瞳に映っている私が、さっきまでよりも少しだけ鮮明に見える気がする。
『なんで、優しくするんですか』
さっき自分が吐き出した言葉が、頭の中で重なっていく。
『誰にでも、優しいわけじゃないよ』
……じゃあ、どうして私には優しくしてくれるんですか。
喉まで出かかった言葉は、声にならないまま飲み込まれた。
急に、この世界のもの全部が少しだけ色を変えたように感じる。
駅前の光も、遠くの車の音も、さっきまでと同じはずなのに、どこか輪郭が柔らかくなっている。
その中で一番だけが、やけにくっきりして見えた。
有馬さんは一度視線を外し、それからゆっくりと体を起こす。
屈めていた姿勢を戻すと、またいつもの位置から私を少しだけ見下ろす形になる。
「送っていくって言ったのは俺だけど、引き留めるのは感心しないな」
そう言いながらも、有馬さんは眉を片方だけ上げて、少し困ったように、それでもどこか優しく笑った。