遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「じゃあ、あの後輩くんは?」
「八木くんのこと?」
「そうそう。あの子も中々いい素材じゃない?」
ふんわりと、八木くんの顔が頭に浮かぶ。
年下ということもあって、かわいいな~と思う瞬間は確かにある。普段は不愛想だしなに考えてるかわからないけれど、たまに笑ったりするし、なんだか子犬っぽいというか。
「てか、髪もアイロンかけてないじゃん。もしかして、寝坊した?あ、だから慌ててその靴履いてきたんだ?」
佳奈子の鋭すぎる観察眼に、私は思わず目を細める。もうこれは、名探偵だと思う。
「全部当たってる。朝イチ会議だから、早めに出たんだけど…ギリギリで」
「いつもより人多かった?」
「いや、10分ほどしか変わらないからそんなに…」
そう言いかけたところで、ふと記憶がよみがえる。
今朝の電車。遅刻ギリギリで駆け込んだ、あの車両。
「…今日乗った車両に、すごく綺麗な人いたんだよね」
気づけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
「女?」
佳奈子が即座に食いつく。
「ううん、男の人」
「え?女装ってこと?」
あまりに現実的じゃない方向に飛ぶ発想に、私は慌てて首を振る。
「そうじゃなくて…かっこいいより、綺麗が似合う人」
自分でもうまく説明できないまま、言葉だけが先に出ていく。
整っている、とか、端正、とか、そういう既存の言葉に当てはめるのがなんだか違う気がしてしまうのだ。
朝の光の中で静かに窓の外を見ていた横顔。感情が読めないのに、なぜか目が離せなかった存在。
「ふーん?」
佳奈子は興味ありそうに、でもどこか面白がるような声を出した。
その一言だけで、なぜか自分の中の温度が少し上がるのがわかる。