遅かれ、早かれ、恋になりまして。
睨んでくる八木くんに、ごめんごめんと軽く笑って謝りながら、自分のパソコンに視線を戻した、その瞬間だった。
プルルルル!と電話が鳴る。
視界の端で、八木くんが即座に受話器へ手を伸ばすのが見えた。
「LUCENT広告株式会社営業部です」
電話対応用の少し高めの声に切り替えた八木くんが、ちら、と私に合図を送ったことに気づく。
え?私?
「先輩、電話です」
横から飛んできた声に、一瞬だけキーボードから手が離れる。
「誰から?」
「NEXERAです」
その言葉で、ほんの少しだけ胸の奥が反応する。
ああ、また田島さんかな、くらいの軽い想像のまま、私はメモ用紙を引き寄せてペンを握る。受話器を手元に引き寄せて保留ボタンを押しながら、いつもの業務モードに切り替える。
「お電話代わりました、明石です」
『あ、もしもし』
聞こえてきた声に、一瞬だけ呼吸が止まる。
有馬さんの声だった。
仕事用の、低くて落ち着いたトーン。
何日も空いていたはずなのに、耳に入った瞬間に一気に記憶が引き戻される感じがして、指先の感覚が少し遅れて追いつかない。
私は一度だけ息を吸って、できるだけ何もなかったふりをして声を出そうとするのに、その前に小さく手が震えたのが自分でも分かってしまった。