遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「……お世話になっております」


そう返しながら、さっきまでだらけていた背筋が無意識に伸びる。


『昨日、電話もらったのに出れなくてすみません。昨日というか、最近ずっとそうですが』

「あ、いえ……こちらこそすみません。急ぎでLPの確認があって」


私は昨日のことを思い出しながら、簡単に経緯を説明する。

配信の微調整、遷移先の確認、数値の確認依頼。言葉にしながら、自分の中でも出来事が整理されていくのが分かる。電話越しに短い相槌が返ってくるたびに、ちゃんと聞いてくれているのが伝わってきて、それだけで少しだけ安心する。


『問題なかったので大丈夫です。むしろ早めに気づいてもらえて助かりました』

「よかったです」


自分でも少し力が抜けるのが分かる。一通りの確認が終わりかけたところで、有馬さんの声が少しだけトーンを変えた。


『そういえば、金曜日、懇親会やるらしいですね』


一瞬、手元のペンが止まる。


「……あ、そうなんですね。まだ聞いてなくて」

『ついさっき決まったらしいです。田島さんと高瀬さんがやり取りしてたみたいで』


有馬さんの声は、電話越しだと少しくぐもって聞こえる。機械を一枚挟んだだけで、同じ声のはずなのに温度が少しだけ変わる気がして、その微妙な違いに逆に意識が引っ張られてしまう。

そういえば、電話越しの声は本当の声じゃない、みたいな話をどこかで聞いたことがある。

音の帯域だとか、伝わり方だとか、そういう理屈はあった気がするけど、今の自分には全然関係ない無駄な豆知識だ。


『楽しみですね』


だから、これは有馬さん本人の声じゃない。
機械を通した、少しだけ変質した音のはずなのに。

なのに、なんでこんなにドキドキするんだろう。

さっきまで普通に仕事の電話をしていたはずなのに、呼吸のリズムだけがどこかおかしい。
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