遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「そうですね……」
結局、それしか返せなかった。返せる言葉を探している間に、頭の中では別のことばかりが勝手に浮かんで消えていく。
『じゃあ金曜日、またよろしくお願いします』
「はい、よろしくお願いします」
通話が切れる直前まで、有馬さんの声はいつも通りだった。
落ち着いていて、普段通りのはずなのに、その中にだけ少しだけ柔らかい何かが混ざっている気がしてしまうのが、自分でも厄介で、電話を置いたあともしばらく、耳の奥にだけその声が残っていた。
久しぶりに聞いた。久しぶりの有馬さんだった。
もはや、生存確認に近い。
「……。」
…………楽しみですねって。
どんな顔で言ってたの。
電話越しだから見えるはずもないのに、勝手に想像だけが膨らんでいくのが嫌になる。
「先輩。なんの電話でした?」
八木くんの声にハッとして、私は慌てて現実に引き戻されるようにメモ用紙を確認する。
そこにはさっき書いたはずの数字と、LPの修正確認のメモが並んでいるけれど……なんだ、この汚い字は。
「うわ、先輩、字汚い」
「うるさいなー!慌ててたのっ」
反射的に言い返すけど、自分でも分かっている。これは言い訳できないレベルで崩れている。いつもなら普通に書き取れるはずのメモが、さっきの電話一本でここまで乱れるなんて、自分でもちょっと信じられない。
でも、仕方ないじゃん、相手が有馬さんだったんだし。