遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「課長、忙しそうですね」

「そうなんだよ。最近会議続きでね。ごめんね、ほんと任せっきりで」


課長は申し訳なさそうに眉を下げながらそう言った。

でも、正直、嫌じゃなかった。むしろ少し嬉しいくらいだった。課長からこうして直接仕事を頼まれることなんて滅多にない。いつも自分でなんでもこなしてしまう人だから、細かいことまで周りに振ることが少ないのだ。

上司なんだから、いちいち謝らなくたっていいのに。そういうところなんだろうな、と思う。忙しくても偉そうにしないところとか、ちゃんと周りを見てるところとか。だから課長を慕ってる人が多いし、みんな自然と力になりたいって思うんだろうなって、改めて感じた。


「助かる、ほんと」


課長はそう言って、私に資料束を渡す。ずしりとした重みが腕にかかって、思わず「うわ、重っ」と小さく笑ってしまった。


「じゃ、よろしくね!」


最後にぱたぱたと手を振ると、課長はまた慌ただしくフロアを出ていく。閉まりかけたエレベーターに滑り込む姿まで忙しそうで、なんだか少し心配になるくらいだった。

静かになったフロアで、私は改めてデスクの上に積まれた資料を見る。

……うん、まあまあ多い。でも、終わらない量じゃない。集中すれば一時間もかからないはず。そう思いながらファイルを抱え直した時、視界の端に八木くんの姿が入った。

さっきまで帰る準備をしていたはずなのに、まだ立ったままこちらを見ている。鞄を肩にかけたまま、なぜか動こうとしていなかった。


「八木くん、帰っていいからね!」


思わずそう声をかける。これくらいなら一人で十分終わるし、わざわざ後輩を巻き込むほどでもない。
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