遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「これ、資料室ですよね?」
「そう。八木くん、時間大丈夫?」
「全然大丈夫です」
八木くんが残業しているところなんて、今までほとんど見たことがない。仕事が早いからいつも定時近くには片付いてるし、無駄にだらだら残るタイプでもない。だからこそ、こうして付き合わせてしまっていることに申し訳なさを感じる。
「じゃ、これ持ちます」
「あ、ありがとう」
ふたりでファイルを分けて持ちながら、資料室へ向かう。
……八木くんがいてくれて、助かったかも。私ひとりだったら、このファイル絶対一回じゃ持ちきれなかった。
「先輩」
「ん?」
「それ、重くないですか」
「大丈夫。これくらい平気」
「いや、絶対強がってますよね」
そう言いながら、八木くんは自然に私の持っていたファイルの一部を取る。
「ちょ、いいって」
「先輩、顔に出やすいんですよ」
さらっと言われて、思わず口を閉じる。
そんなにわかりやすいかな、私。
八木くんは少し笑いながら前を歩いていく。後輩なのに、時々こっちが面倒見られてるみたいだ。
資料室でファイルを棚に戻し終える頃には、さすがに少し腕が疲れていた。
「終わったー……」
小さく呟くと、「お疲れ様です」と八木くんが隣で笑う。その声にまた少し肩の力が抜けた。
デスクへ戻ると、八木くんは再び帰る準備を始める。
「先輩。今日は、帰りませんか?」
「え?」
聞き返すと、八木くんは少し困ったように眉を寄せた。
「う〜ん、まだやりたいこと残ってるからなぁ」
そう言いながら自分のパソコンを見る。未整理のデータ、途中まで作った資料、返信してないメール。気になることを挙げ始めたらきりがない。