遅かれ、早かれ、恋になりまして。
20:45
”ちょっと幻滅した?”
金曜日。
駅前の赤ちょうちんがぶら下がっている居酒屋は、外から見ると昔ながらの落ち着いた店って感じだったのに、引き戸を開けた瞬間、むわっとした熱気と笑い声が一気に押し寄せてきた。
店員さんに案内されて小上がりへ向かう。
靴を脱いで上がる時、ちらっと前を見ると、有馬さんがスーツの裾を整えながら席につくのが見えた。その横顔だけで、心臓が変にうるさくなる。
今日、ちゃんと話せるかな。仕事以外のこと、少しでも。そんなこと考えてる時点で、もうだめなのに。
席は、私と高瀬課長で挟むように八木くんが真ん中。NEXERA側は、私の正面に田辺さん、その隣に田島さん。
そして――有馬さんは、私から一番遠い席だった。
一番、遠い。視線を向ければ見える。でも、普通に話しかけられる距離じゃない。なんでよりによって一番遠いの。
座布団の上に正座しながら、そっと顔を上げる。有馬さんはもう田島さんと何か話していて、笑いながら軽く頷いていた。店員さんがジョッキを並べていく間も、私は無意識に有馬さんのほうばかり見てしまって、自分で自分に呆れた。
田島さんが「今日はよろしくお願いします」と乾杯の音頭をととって、懇親会が始まる。
「今回、結構すんなりいきました?」
「そうですね。うちの明石と八木がうまいことやってくれてます」
課長と田島さんは、乾杯してすぐ仕事の話に入っていく。有馬さんも自然にそこへ加わって、案件の進め方とか、スケジュール感とか、落ち着いた声で話していた。
まあ……そりゃそうだよね。仕事関係の飲み会なんだから。でも、せっかくの機会だったのに。こんなに遠かったら、会話に入る隙すらない。
私は枝豆をつまみながら、なんとなく愛想笑いを浮かべるしかなかった。有馬さんが笑うたび、遠くの席で横顔が少し揺れる。そのたびに、目で追ってしまう。話したい。できれば、仕事じゃない話がしたい。休日なにしてるとか、好きなお酒とか、そんなくだらないことでいいのに。
「先輩、食べたいものあります?とりましょうか?」
真ん中に座る八木くんが、テーブルの上の料理を見ながら気を利かせるように小皿に取り分けてくれる。
「明石さん、今おいくつですか?」
田辺さんが興味を持ったようにこちらを見る。柔らかい雰囲気の人だけど、目の奥がちゃんと仕事できる人のそれで、少し緊張する。
「26です」
「あ、私と同じですね!」
ぱっと明るく笑う田辺さん。
田辺さんは、有馬さんと田島さんと一緒にこのプロジェクトを担当するくらいだから、私には有馬さん同様だいぶ仕事ができる女性に見えている。