遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「八木くんは、俺が送っていくから。明石さん、ひとりで帰れる?」


高瀬課長がそう言いながら腕時計を確認する。つられるみたいに私も時間を見ると、まだ20時45分だった。思ったより早い。もっと遅くまで飲んでた気がしたのに。アルコールのせいで時間感覚がおかしくなってるのかもしれない。


「大丈夫です」


そう返しながら、私は無意識に有馬さんのほうを見た。すぐに目が合う。

街灯の下で浮かぶ、少し切れ長のアーモンド形の瞳。

見られた瞬間、胸が跳ねる。でも、ここで引いたらだめだと思った。せっかく今日、ここまで来たんだから。


「私、有馬さんに送ってもらうので」

「同じ方向なの?」

「そうなんです」


田辺さんが、私は田島部長と同じ方向なんでと言って、自然に話がまとまっていく。

でもその間、私はずっと有馬さんの反応が気になって仕方なかった。勝手に、送ってもらうなんて言った。迷惑だったかな。

落ちてきた髪を誤魔化すみたいに耳へかけながら、もう一度そっと有馬さんを見る。少しだけ驚いた顔をしていた。

でも、嫌そうでは……ない。たぶん。お願い。これくらい、許して。だって、有馬さんが悪いんだから。

『楽しみですね』なんて、あんな声で言うから。電話越しでもわかるくらい柔らかく笑ってたから。私は勝手に期待してしまった。

今日、もっと話せると思ってた。少しくらい二人になる時間があると思ってた。だから仕事終わりなのに、服も少し悩んで、髪だっていつもよりちゃんと巻いてきたのに。

なのに実際は、席は一番遠くて、会話するタイミングなんて一回もなくて。私はほとんど田辺さんと八木くんと喋って終わった。

楽しかった。楽しかったけど。でも違う。今日、本当に楽しみにしてたのはそこじゃない。ずっと、有馬さんと話したかった。


課長がちょうど停まったタクシーを捕まえて、ぐったりしている八木くんを半ば引きずるみたいに立たせる。


「ほら八木くん、帰るよ」

「うぅ……すみません……」


完全に潰れてる八木くんに、みんなで小さく笑った。


「じゃあ、今日はありがとうございました」


口々に挨拶をして、その場が少しずつ解散の空気になる。タクシーのドアが閉まって、課長たちを乗せた車が走り去っていく。残ったのは、私たち4人だけだった。
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