遅かれ、早かれ、恋になりまして。
有馬さんに連れてきてもらったのは、駅前から少し離れたビルの中にあるバーだった。
店内は照明がかなり落とされていて、壁一面に大きな水槽がある。青い光に照らされながら、熱帯魚たちがゆっくり泳いでいた。テレビで見たことのある魚。名前は知らないけど、鮮やかな色だけがぼんやり目に残る。
「よく来られるんですか?」
カウンター席に座りながら尋ねる。左隣には有馬さん。近い。さっきまで向かいの席ですら遠かったのに、今は肩が触れそうなくらい近い。
「一度だけ、田島さんに連れてきてもらったことがあって」
「ああ、なるほど」
なんとなく納得してしまう。こういう落ち着いた店、たしかに田島さんっぽい。
「さっきの居酒屋は、田辺さんが予約してくれたんです」
それも、なんかわかる。田辺さんっぽい。
メニューを開きながら、私は少し迷ったあと、ワインを頼んだ。普段なら選ばないのになんとなく、この空間に合わせたくなった。少しだけ背伸びしたい気分だった。
「ワインなんですね」
「……だめですか」
「いや」
有馬さんは小さく笑う。
「大人ですね」
その言い方が、少しからかうみたいで悔しい。
「違いますよ」
思わず口を尖らせる。でも本当はわかってる。こんなの、隣に有馬さんがいるからだ。少しでも大人っぽく見られたくて、少しでも子ども扱いされたくなくて。そんなこと考えてる時点で、全然大人じゃないのに。
「最近、どうですか?」
不意に、有馬さんがそう聞いた。低くて落ち着いた声。私は一瞬だけ言葉に詰まる。
“どう”って、たぶん仕事のことだ。この前、私が弱音を零した時のこと。ちゃんと覚えてくれてたんだ。そう思っただけで、胸がじんわり熱くなる。