遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「担当してる案件でトラブル続いてて」
氷がカランと鳴る。
「最近ずっと早朝出勤なんですよ。朝から会議して、残業して、みたいな」
そう言いながら苦笑する横顔。やっぱり。なんとなく、そんな気はしてた。
「大変だったんですね」
「まあ、ようやく落ち着いてきましたけど」
そこで有馬さんは少しだけ姿勢を崩して、頬杖をついた。青い水槽の光が横顔に落ちる。長い指。少し眠たそうに細められた目。そして、横目で私を見る。
「月曜日からは、いつも通りです。会えますね」
その瞬間、心臓が止まりそうになった。
会えますね。そんな言葉、ずるい。
私は動揺を隠すみたいに、残っていたワインを一気に飲み干した。
だめ。今絶対顔赤い。しかも有馬さん、言ったあと普通にウイスキー飲んでるし。なんでそんな平然としてられるの。私だけ、こんなに振り回されてるみたいで悔しい。
「……それ、私が楽しみにしてるってわかって言ってます?」
思わず小さく呟くと、有馬さんは「どうでしょう」とだけ笑った。
ずるい。本当にずるい。
そのあとも、仕事の話とか、他愛ない話をした。最近観た映画のこと。田辺さんが意外と酒豪だったこと。八木くんが完全に巻き込まれてたこと。有馬さんが昔、営業先で盛大に道に迷った話。
「すみません。抜けてるってよく言われます」
そう言って笑ったその表情が、妙に胸に残った。
抜けてる、なんて言葉を自分に向けて軽く言えるその余裕と、恥ずかしさをごまかすような少しだけ照れた目元。その瞬間だけ、有馬さんが遠い完璧な人じゃなくて、ちゃんと同じ温度の人間に見えた気がした。
いや、正確には、ずっと完璧だと思い込んでいたのは私の勝手で、その仮面の裏にこんな隙があることが嬉しいと感じてしまっている自分に気づいて、少しだけ戸惑った。