遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「……っ」


喉の奥が詰まって、息がうまくできない。


「あれ?どうしたの?」


有馬さんの声が、少しだけ驚いたように落ちてくる。


「はは……なんにも……っ」


誤魔化そうとしたのに、声がちゃんと出ない。

違う。なんにもじゃない。全部だ。今までの全部が、一気に溢れてきただけだ。

遅い。全部遅い。なんで今なんだろう。どうして今になって、こんなふうに好きって気づいてしまうんだろう。

さっきの横顔を思い出す。ウイスキーを飲みながら、遠くを見ていた目。あれを見た瞬間にわかってしまった。

勝ち目なんて、ないのかもしれないって。もし私がこの人の恋人になれたとしても、その過去には絶対に勝てない気がした。一生、届かない何かがある気がした。


「……一曲だけ、教えてくれません?おすすめ」


やっとの思いで、そう言う。声はまだ少し震えていたけど、それでも口に出した。


「最近だと、これとかですかね」


有馬さんがスマホを取り出して、画面をこちらに向ける。カウンター越しに、少しだけ距離が縮まる。自然に肩が寄るくらいの距離。その画面を覗き込んだ瞬間、思わず目を見開いた。


「……あ、知ってる、この曲」


口から漏れた声は、自分でも驚くくらい小さかった。

でもそれよりも、今はどうでもよかった。画面の中のタイトルじゃない。音楽でもない。

隣にいるこの人の温度が、さっきより少しだけ近いことのほうが、ずっと、ずっと大事だった。
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