遅かれ、早かれ、恋になりまして。
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「明石さん、悪いけど今からNEXERA行ってきてくれない?至急、渡してほしい書類があって」
課長がそう言ったのは、11時半を少し過ぎた昼前だった。
「ほんと、昼前にごめん」
「全然大丈夫です!行ってきます」
反射みたいに返事をしながら封筒を受け取る。NEXERAに行くのは初めてだ。いつもは向こうの人がうちに来る側で、自分が出向くことなんてなかったから。
「有馬さんには電話で伝えてあるから、ロビーにいると思うよ」
その名前を聞いた瞬間、ほんの少しだけ呼吸が浅くなる。大丈夫です、と笑って答えたはずなのに、指先がじわっと冷たくなっていくのが分かった。
――有馬さん。名前を思い出すだけで、落ち着かなくなる自分がいる。
準備をして立ち上がった瞬間、「先輩、気を付けて」と背後から八木くんの声がした。思わず振り返る。いつも通り無愛想で、感情が読みにくい顔。それなのに、その一言だけがやけに優しく聞こえた。
「行ってきます!」
わざと明るく返して、私は会社を出た。NEXERAの最寄り駅はここから二駅。5分で着いて、そこからまた5分歩く。見上げたビルはうちの会社の倍くらい大きくて、ガラス張りの外壁に青い“NEXERA”の文字が刺さるみたいに浮かんでいた。
――やばい。急に、ちゃんと緊張してきた。
手のひらがじっとり汗ばむ。心臓が変なリズムで鳴っているのに、止め方が分からないまま自動ドアへ向かった。
入った瞬間、冷房の空気が肌を撫でていく。
――あ、いる。
ロビーのソファの一つに、彼はいた。
有馬さん。
書類らしきものに目を落としていて、横顔がやけに整って見える。分かってたのに、実際に見ると息が詰まる。名前を呼ぶだけなのに喉が引っかかる。ここで声を出すだけなのに、妙に怖い。
「…っ、有馬さん」
少し震えた声で呼ぶと、有馬さんが顔を上げた。目が合った瞬間、そのアーモンド形の瞳がふっと柔らかくなる。それだけで、胸の奥が変なふうに痛くなる。
「明石さん、悪いけど今からNEXERA行ってきてくれない?至急、渡してほしい書類があって」
課長がそう言ったのは、11時半を少し過ぎた昼前だった。
「ほんと、昼前にごめん」
「全然大丈夫です!行ってきます」
反射みたいに返事をしながら封筒を受け取る。NEXERAに行くのは初めてだ。いつもは向こうの人がうちに来る側で、自分が出向くことなんてなかったから。
「有馬さんには電話で伝えてあるから、ロビーにいると思うよ」
その名前を聞いた瞬間、ほんの少しだけ呼吸が浅くなる。大丈夫です、と笑って答えたはずなのに、指先がじわっと冷たくなっていくのが分かった。
――有馬さん。名前を思い出すだけで、落ち着かなくなる自分がいる。
準備をして立ち上がった瞬間、「先輩、気を付けて」と背後から八木くんの声がした。思わず振り返る。いつも通り無愛想で、感情が読みにくい顔。それなのに、その一言だけがやけに優しく聞こえた。
「行ってきます!」
わざと明るく返して、私は会社を出た。NEXERAの最寄り駅はここから二駅。5分で着いて、そこからまた5分歩く。見上げたビルはうちの会社の倍くらい大きくて、ガラス張りの外壁に青い“NEXERA”の文字が刺さるみたいに浮かんでいた。
――やばい。急に、ちゃんと緊張してきた。
手のひらがじっとり汗ばむ。心臓が変なリズムで鳴っているのに、止め方が分からないまま自動ドアへ向かった。
入った瞬間、冷房の空気が肌を撫でていく。
――あ、いる。
ロビーのソファの一つに、彼はいた。
有馬さん。
書類らしきものに目を落としていて、横顔がやけに整って見える。分かってたのに、実際に見ると息が詰まる。名前を呼ぶだけなのに喉が引っかかる。ここで声を出すだけなのに、妙に怖い。
「…っ、有馬さん」
少し震えた声で呼ぶと、有馬さんが顔を上げた。目が合った瞬間、そのアーモンド形の瞳がふっと柔らかくなる。それだけで、胸の奥が変なふうに痛くなる。