遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「すみません、急に必要になりまして」
有馬さんはそう言いながら立ち上がった。落ち着いた声。慣れている仕事の人の声。封筒を渡すと、有馬さんはすぐ中身に目を通し始めた。その横顔を見ているだけで、視線の置き場に困るくらい落ち着かない。
「明石さん、ちょっとだけ時間あります?」
「え?」
「書類の確認をしないといけないので、少しの間お待ちいただけると助かるんですけど…」
「あ、大丈夫です」
好きだって自覚してから、まだ数日しか経ってない。なのに、もう全部バレてしまいそうで怖い。
そう思いながら、有馬さんに案内されてエレベーターに乗り込む。密室の中、静かすぎて自分の呼吸がうるさいくらい響く。
ふと、八木くんの言葉を思い出した。
『先輩も後悔しないようにしてくださいね』
…………後悔。
後悔って何?
今のこれが後悔しない選択なの??
エレベーターが4階で止まり、有馬さんが先に降りる。その背中を追いかけるようについていくと、“ミーティングルーム”と書かれた部屋に通された。
「すぐ戻ってきます」
有馬さんはそう言うと、返事を待たずに出て行ってしまった。一人残された部屋は静かで、逆に考え事が止まらなくなる。
数分後、コンコンと控えめなノック音。事務の人だろうか。お茶を持ってきてくれる。
また数分後。今度はバタバタと慌ただしい足音が近づいてきて、さっきより強いノック音が響く。
返事をすると、勢いよく扉が開いた。
「すみません、遅くなりました。これ、高瀬さんに渡してください」
有馬さんが少し息を整えながら、封筒を差し出す。
その瞬間、心臓がきゅっと縮む。
…………これを受け取ったら、終わる気がした。
もう二人きりになることも、ちゃんと話す時間も、きっとこれで最後になる。私がこの人に気持ちを伝える未来も、全部ここで閉じてしまう気がした。
首を傾げて、「明石さん?」と戸惑った声が落ちる。その声に、胸の奥がまた小さく揺れる。