遅かれ、早かれ、恋になりまして。
伝えないまま、気持ちに蓋をしたまま、この先も私はこの人と仕事をしていく。何事もなかったみたいに笑って、普通に会話して、普通に書類を渡して。でもきっとそのたびに、私はこの人の優しさに触れて、勝手に救われて、勝手に泣きたくなるんだと思う。
だったらもう、このまま何も言わないのは違う気がした。
八木くんの言葉が、やけに現実みたいに刺さる。
『先輩も後悔しないようにしてくださいね』
後悔。
好きなのに、それをなかったことにして生きていくの?そんなの、きっとずっと自分を裏切ることになる。
「…有馬さん、これからする質問、嘘つかないで答えてくれますか」
逃げたくなかった。声が震えそうになるのを押さえて、まっすぐ目を見て言う。すると有馬さんは一瞬だけ驚いた顔をして、それでもすぐに封筒を長机に置いた。
「はい」
短く、でも迷いのない返事。その一言だけで、少しだけ怖さが減る。
「私のこと、どう思ってますか」
自分でも怖いくらい直球の質問だった。言ってしまったら戻れない気がして、それでも止められなかった。
「…しっかりしてるなと思います」
少しだけ間を置いて、有馬さんはそう答えた。その仕事としての評価みたいな言葉に、一瞬だけ胸がきゅっとなる。でも、まだ終わりじゃない。
「………私のこと、嫌いですか?」
声が小さくなる。それでも、聞かなきゃいけない気がした。
「いいえ」
即答だった。その一言で、呼吸が少し楽になる。
じゃあ、次は。次が一番怖い。
「…私のこと、好きですか?」
その瞬間、有馬さんのアーモンド形の瞳が大きく見開かれた。
時間が止まったみたいに空気が静かになる。でもそれは一瞬で、有馬さんはすぐに表情を戻して、真剣な目で私を見る。
「好きです、明石さんのこと」
よく通る、低くてまっすぐな声だった。