遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「明石さんは気づいてなかったかもしれないけれど、初めて会ったのは、ぶつかったときじゃないです。電車の時間を変えた初日。勢いよく電車に乗り込んできた明石さんは、汗でくっついた前髪を必死に直していて、無理してヒールの高い靴を履いてることなんてすぐ分かりました」


その情景が、急に鮮明に蘇る。あの日の朝。前髪を直していたのは、目の前にあなたがいたから。あなたがそこにいたから、必死だっただけ。高いヒールは私の戦闘服。弱い自分を隠すための、ただの鎧。


「それからずっとなんとなく危なっかしくて目が離せなくて。自信がないって言う割には、意外と芯が強くて。俺が少し背中を押すだけで、簡単に予想を飛び越えてくるじゃないですか」


違う。そんなふうに見えるのは、この人だから。私が変われたんじゃない。この人の前だと、ちゃんと立ちたくなるだけ。


「トラブルで俺を呼んだのも、帰りたくないって言った時も、手を繋いできたときだって、俺ばかり振り回されてる」


そんなの、逆だ。振り回されてたのは、私のほうだ。何もかも、この人の一言で崩れて、落ち着いて、また苦しくなって。そのたびに、気持ちが勝手に動いていった。


「明石さんはどうなんですか」


一歩、距離が詰まる。その一歩が怖いのに、目を逸らせない。

……………もう逃げない。逃げたくない。

私は踏ん張って、有馬さんを見上げた。


「好きです、私も」


声に出した瞬間、ずっと奥に押し込んでいたものが溢れそうになる。

好きなところなんて、いくらでもある。

綺麗な横顔が好き。ふとした時に見える、静かな表情が好き。私を映すアーモンド形の瞳が好きで、その瞳が私を見つけた瞬間、ふっと柔らかくなるのが好き。低くて、落ち着いた声が好き。安心させるみたいな話し方が好き。

――全部、気づいたら好きだった。


「有馬さんのことが、好きです」


もう一度、今度は逃げずに言うと、有馬さんは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせて、それから静かに笑った。
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