遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「お疲れ様です」
「お疲れ様ですっ……もしかして、有馬さんの車ですか!?」
「そうです。最近、終電逃すことも多いので」
有馬さんは、そのまま助手席側へ回り込み、自然な動作でドアを開ける。
「どうぞ」
スマートすぎる動きに、心臓がまた変な音を立てた。
「し、失礼します……」
半分流されるみたいに車へ乗り込む。シートに座った瞬間、ふわりと有馬さんの香りがした。落ち着くような、でも余計にドキドキする匂い。すぐに有馬さんも運転席へ乗り込んでくる。
――近い。狭い車内。ふたりきりの空間。エレベーターの中で感じていた緊張なんて比べものにならないくらい、胸がうるさい。
「すみません、連絡遅くなって」
低い声が静かな車内に響く。
「……いえ」
うまく顔が見られない。
「久しぶりですね」
「……そうですね」
たった一週間。でも、もっとずっと会えてなかった気がする。
「会いたかったです」
あまりにも自然に、当たり前みたいに言われて、私は勢いよく顔を上げた。有馬さんはハンドルに腕を乗せたまま、少し首を傾げてこっちを見ている。
その表情がずるい。余裕があって、穏やかで、でも時々不意打ちみたいに甘いことを言う。そんな顔で見つめられたら、平常心なんて保てるわけない。
「……何か、用事でもあったんですか?」
思わずそんなことを聞いてしまった。だって、有馬さんは忙しい人だから。仕事ができて、合理的で、無駄を嫌う人。だから私は、“ただ会いたいから会う”みたいなことを、この人はしないんじゃないかって、どこかで思っていた。
恋人になれたからって、毎日甘い時間を過ごせるなんて、期待しないようにしてた。
すると有馬さんは、少しだけきょとんとした顔をしたあと、ゆっくり体をこちらへ向けた。
「……用がないと、ダメでした?」
「え……」
予想外の返答に言葉が詰まる。有馬さんは小さく笑って、それから静かな声で言った。