遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「お疲れ様です」

「お疲れ様ですっ……もしかして、有馬さんの車ですか!?」

「そうです。最近、終電逃すことも多いので」


有馬さんは、そのまま助手席側へ回り込み、自然な動作でドアを開ける。


「どうぞ」


スマートすぎる動きに、心臓がまた変な音を立てた。


「し、失礼します……」


半分流されるみたいに車へ乗り込む。シートに座った瞬間、ふわりと有馬さんの香りがした。落ち着くような、でも余計にドキドキする匂い。すぐに有馬さんも運転席へ乗り込んでくる。

――近い。狭い車内。ふたりきりの空間。エレベーターの中で感じていた緊張なんて比べものにならないくらい、胸がうるさい。


「すみません、連絡遅くなって」


低い声が静かな車内に響く。


「……いえ」


うまく顔が見られない。


「久しぶりですね」

「……そうですね」


たった一週間。でも、もっとずっと会えてなかった気がする。


「会いたかったです」


あまりにも自然に、当たり前みたいに言われて、私は勢いよく顔を上げた。有馬さんはハンドルに腕を乗せたまま、少し首を傾げてこっちを見ている。

その表情がずるい。余裕があって、穏やかで、でも時々不意打ちみたいに甘いことを言う。そんな顔で見つめられたら、平常心なんて保てるわけない。


「……何か、用事でもあったんですか?」


思わずそんなことを聞いてしまった。だって、有馬さんは忙しい人だから。仕事ができて、合理的で、無駄を嫌う人。だから私は、“ただ会いたいから会う”みたいなことを、この人はしないんじゃないかって、どこかで思っていた。

恋人になれたからって、毎日甘い時間を過ごせるなんて、期待しないようにしてた。

すると有馬さんは、少しだけきょとんとした顔をしたあと、ゆっくり体をこちらへ向けた。


「……用がないと、ダメでした?」

「え……」


予想外の返答に言葉が詰まる。有馬さんは小さく笑って、それから静かな声で言った。
< 171 / 175 >

この作品をシェア

pagetop