遅かれ、早かれ、恋になりまして。

言葉は準備してきた通りに出てくるのに、視界の端ではどうしても彼の存在を拾ってしまう。資料に目を落としているようで、実際は何を見ているのか分からない静かな視線。

その視線が時折こちらに向いている気がして、呼吸のリズムがわずかに乱れる。


「今回のターゲットは、中小企業のIT導入担当者および経営層の意思決定者を想定しております」


そう言いながら次のスライドに切り替えた瞬間、ふとした沈黙が生まれる。

私はその間を埋めるように言葉を続けようとしたが、その直前、ほんの一瞬だけ視線を上げてしまった。

目が合った。確かに、合った。

たったそれだけなのに、喉の奥が一瞬だけ詰まる感覚がする。彼は表情を変えない。ただ静かにこちらを見ているだけ。それなのに、なぜか試されているような錯覚があった。

私は慌てて視線をスライドに戻し、「競合他社との差別化ポイントとしては、導入のしやすさとサポート体制の手厚さを前面に出す形を想定しています」と続けた。

隣で課長が小さく頷き、タイミングを見て補足を入れる。


「実際の運用フェーズでは、初期導入後の離脱率を抑える設計が重要になるかと思いますので、その点も踏まえています」


その声で少しだけ呼吸が戻る。私は一度ノートパソコンのトラックパッドに指を置き、次の資料を開く準備をしながら言葉を繋いだ。


「そのため、今回は単なる広告展開ではなく、導入後の利用イメージまで含めたストーリー設計を重視しております」


画面にはプロモーションの全体設計図が表示される。ファネル、接点設計、LP、広告導線。それらを説明している間も、どうしても意識の奥で彼の存在が消えない。
< 27 / 175 >

この作品をシェア

pagetop