遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「有馬さん…!おはようございます」
慌てて姿勢を正そうとした瞬間、ちょうど電車が大きく揺れた。バランスを崩しかけた私に、有馬さんが反射みたいに手を伸ばしてくる。そのまま咄嗟に、私はその手を掴んでしまった。
「っ、すみません」
触れた瞬間、有馬さんの手の感触が妙にはっきり伝わってきて、私はハッとする。慌てて手を離して、つり革へ持ち替えた。
だめだ。ぼーっとしすぎてる。自分でも分かるくらい頭が回っていない。
「明石さん、もしかして調子悪いですか?」
「え?」
「体調悪そうです」
心配そうな声に、私は反射的に俯く。
どうしよう。もしかして、クマあるのバレた……?ただでさえ寝不足で最悪な顔してるのに。有馬さんに見られてると思うと、一気に恥ずかしくなってくる。
「大丈夫です……ちょっと寝不足なだけで」
俯いたまま、小さくそう答える。
あぁ、もう。顔が見れない。席はどこも空いていなくて、逃げ場もない。同じ空間にいるだけで、妙に意識してしまう。
昨日の課長の言葉でいっぱいだったはずなのに、有馬さんが目の前にいるだけで、頭の中がまた違う意味で落ち着かなくなる。
揺れる車内。流れていくアナウンス。つり革を握る手に少しだけ力が入る。
早く、着いて。
そんなことを思うのに、こういうときに限って電車がやけに長く感じた。
一瞬だけ目を閉じてみる。たったそれだけなのに、意識がすぐ沈みそうになるくらい眠かった。このまま目を閉じ続けたら、たぶん普通に寝られる。
揺れる電車のリズムが妙に心地よくて、重たい瞼がそのまま落ちていきそうになる。
でも、すぐ前に有馬さんの気配を感じて、私はなんとか目をこじ開けた。