遅かれ、早かれ、恋になりまして。

会社に着いた瞬間、さっきまでよりさらに足取りが重くなった気がした。

駅から会社まで歩いている間は、外の空気のおかげか少しだけ意識が保てていたのに、自動ドアを抜けてオフィスの空気に触れた途端、一気に現実へ引き戻される。

今日はだめだ。頭が全然回っていない。


「おはようございます」


フロアへ入った瞬間、すぐ隣から声が飛んできた。


「八木くん、おはよう」


私の隣のデスクの八木くんは、今日も既にパソコンを立ち上げて仕事モードに入っていた。時計を見ると、まだ始業までは少し時間がある。
相変わらず早い。もう少し肩の力抜いてもいいのにな~なんて思う反面、この時代にここまで仕事に真面目な後輩を見ると、普通に感心してしまう。というか、尊敬に近い。

八木くんは年下なのに、変に浮ついたところがなくて、任された仕事はちゃんと最後までやるタイプだ。たまに課長からの無茶振りにも平然と対応しているし、地味にメンタルが強い気がする。


「あれ?高瀬課長は?」


何気なく視線を向けた先、課長のデスクが空なのに気づいて、私は思わずそう聞いていた。


「さっき出ていきましたよ。入れ違いっすね」


八木くんはキーボードを打ちながら、さらっと答える。


「そう」


短く返しながら、私は自分の席にカバンを置いた。その動作だけで、少し肩が重く感じる。やっぱり今日は調子が悪い。こういう日は、何をしても普段より一段遅れている気がする。

椅子に腰を下ろしてパソコンを立ち上げると、いつもの起動音がやけに遠く聞こえた。画面が明るくなるのをぼんやり待ちながら、無意識に肩を回す。少しでも頭を動かさないと、このまま固まってしまいそうだった。
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