遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「本日は、前回いただいたご意見を踏まえて、ターゲット設計とクリエイティブ訴求部分を中心に修正案をご説明いたします」


できるだけ一定の声を意識して話し始める。

前回よりは緊張していない……はずなのに、正面に座る有馬さんの存在だけはやっぱり意識してしまう。今朝、電車で「大丈夫ですか?」と声をかけてきた人と、今目の前にいる営業の顔をした有馬さんが、どうしても一致しない。


「まず、ターゲット層についてですが」


スライドを切り替える。画面には、前回よりさらに細分化されたペルソナ設計が表示される。


「前回ご指摘いただいた“意思決定層への具体性”を踏まえて、今回は導入時に実際に決裁権を持つ層へ訴求軸を寄せています」


説明しながら、画面の一部を指先で示す。


「具体的には、従業員規模50〜300名程度の企業における、情報システム責任者および管理部門責任者を中心ターゲットとして再設計しています」


静かな会議室に、自分の声だけが響く。前回より落ち着いている。そう思った瞬間だった。


「導入障壁については、どう整理されていますか」


有馬さんの声だ。淡々としていて、感情の温度はほとんど見えない。私は一瞬だけ呼吸を整えてから、資料へ視線を落とした。


「前回は導入しやすさを前面に出していましたが、今回は現場定着までのサポート体制を軸に変更しています」


クリックすると、新しいスライドが表示される。導入後のサポートフロー、定着支援、運用イメージ。


「実際に利用が定着するまでの負担軽減を明確化することで、簡単=機能不足という印象を避ける構成にしています」


そこまで言ったところで、ふと視線が上がった。
有馬さんと目が合う。

前回と同じだ。静かな視線。表情は変わらないのに、見られているだけで妙に呼吸が浅くなる。私は慌てて画面へ視線を戻した。
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