遅かれ、早かれ、恋になりまして。
「また、導入後三ヶ月以内の利用定着率をKPIとして設定し——」
「具体的な数値目標は?」
また、有馬さんだ。早い。けれど嫌な圧じゃない。ただ純粋に、必要な部分を正確に確認してくる感じ。その鋭さに少しだけ頭が冴える。
「初期フェーズでは継続利用率七十%を目標に設定しています。加えて、半年以内の追加機能利用率も追う形です」
説明を続けながら、私は頭の奥で必死に集中を繋ぎ止める。
眠い。頭が重い。
でも、不思議と会議が始まると意識だけは前へ向く。隣では高瀬課長が時折小さく頷きながら、必要なタイミングで補足を入れてくれる。その安心感に助けられながら、私は次のスライドへ切り替えた。
「こちらが修正版のクリエイティブ案になります」
画面に表示された広告ラフ。以前より少し温度感を落とし、導入後の“実際の変化”を重視したビジュアルへ修正している。
「前回より、実際の利用シーンを具体的に見せる方向へ寄せています」
説明を続けながら、私はふと違和感に気づく。有馬さんが、前回よりこちらを見ている気がする。気のせいかもしれない。でも、質問のたびに視線が真っ直ぐで、逃げ場がない。
「明石さん」
不意に名前を呼ばれて、私は反射的に顔を上げた。
「はい」
有馬さんは資料へ視線を落としたまま、静かに口を開く。
「前回より、かなり整理されてますね」
その言葉に、一瞬だけ思考が止まる。
褒められた、のかもしれない。でも有馬さんは相変わらず表情をほとんど変えないから、本音が分かりづらい。
「ありがとうございます」
なんとかそう返すと、有馬さんは小さく頷いただけだった。
でも、その一瞬だけ、朝より少しだけ柔らかい空気が混ざった気がして、私はまた意味もなく心臓がうるさくなるのを感じていた。