遅かれ、早かれ、恋になりまして。

「一回、座りましょう」


有馬さんの声と同時に、肩に手が添えられる。強引じゃないのに、迷いのない動きで、私はそのままロビーのソファへと誘導されていた。抵抗する余裕もなく、ゆっくりと腰が沈む。


「……。」


座った瞬間、ようやく息ができる感じがした。有馬さんはそれを確認すると、「水、持ってきます」とだけ言って、その場を離れていく。残された私はソファにもたれたまま天井を見上げた。

情けない。会社で、しかもクライアントの前で倒れかけるとか、一番やっちゃいけないやつだ。しかも結果的に、有馬さんに余計な気を遣わせている。

数分後、足音が戻ってくる。視線を向けると、有馬さんがペットボトルを手に戻ってきていた。


「飲めますか」


短くそう言って差し出される。私は小さく頷いて両手で受け取った。その瞬間、指先がほんの少しだけ触れる。一瞬のことなのに、そこだけ熱を持ったみたいに感じて、私は慌てて視線を逸らした。


「タクシー、呼びます」

「え……そこまでしなくても……」

「無理です」


一瞬だけ被せるように言われて、言葉が止まる。有馬さんはスマホを操作しながら、短く続ける。


「今日は帰った方がいいです。顔色、限界に見えます」


その言い方が、ただ冷たい判断じゃなくて、どこか気遣うような響きを含んでいて、私は何も言えなくなる。
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